Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』(篠田節子)

 篠田節子の短編集『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』(2011年)。収録された作品は、『深海のEEL』『豚と人骨』『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』『エデン』の4篇。4篇とも強烈なインパクトがありましたよ!


 『深海のEEL』は、駿河湾で体内にレアメタルを蓄積した巨大ウナギが発見された事から、その利権を巡って企業が争奪戦を繰り広げるお話。激安回転寿司のネタが怪しげな加工品だという噂は良くある話ですが、魚市場で扱いに困って放棄された巨大ウナギを大手外食産業チェーンのやり手社長が買い込んで、加工して店頭に並べるプロセスがいかにもリアルに描かれています。何故ウナギが体内に希少金属を蓄積して駿河湾に出没するに至ったかという謎の解説もいかにもそれらしくて面白い。巨大ウナギの生態を調べるためセンサーを付けて探査舟船で追跡すると、尖閣諸島に接近して中国漁船と一触即発になるあたりは抱腹絶倒の面白さ。


 『豚と人骨』は、マンションの建築現場から縄文期の遺跡が出土し、さらに高さ10メートルにも及ぶ人骨の塔(しかも若い女性の骨ばかり)が出てきたことから巻き起こる大騒動を描いています。縄文時代にこの地域は豚を飼育し豊かに栄えていたことが判明しますが・・・。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、まさかこんな話とは思わず終盤の展開には度肝を抜かれました。『深海のEEL』のウナギ、そして『豚と人骨』に登場する○○、とグロテスクな描写は夢に見そうなくらい迫力満点です。


 『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』は、田舎のハイテク部品メーカーに勤務する女性がロボットにストーキングされるお話。何も無い田舎町で閉塞感を感じながら暮らす若い女性の心情がリアルに描かれています。『ターミネーター』よろしくヒロインを延々と追い回すロボットの正体とは・・・。ディックへのオマージュともとれるタイトルの意味は終盤で明らかにされます。


 『エデン』は、異国の雪に閉ざされた村に囚われた青年が、30年にも渡るトンネル工事に従事させられるお話。安部公房砂の女』とか、ポール・オースター『偶然の音楽』とか、「罠に囚われて延々と労働をさせられる」というお話のジャンルがあるのかもしれないなあと思ったり。