篠田節子のデビュー作『絹の変容』。1990年第3回小説すばる新人賞受賞作。といっても純文学・・・ではありません。先に読んだ二冊の短編集がジャンルを横断するような多彩な作風だったのに比べると、本作は極めてジャンルものの色が濃い作品でした。
かつては絹織物の産地として栄えたという八王子が舞台。絹織物の衰退とともに包帯製造へと転身し商売を続ける店の二代目が、虹色の光沢を放つ一枚の美しい絹布を発見し、この布で再び家業を再生させようと目論みます。この虹色の絹織はどうやら野蚕系のものであることが判り、主人公は品種改良を重ねて身体が15センチにも及ぶ大型で雑食性の蚕を生み出します。この巨大蚕が飼育棟から逃げ出して・・・というお話。
そう、これは動物パニックものという我ら映画ヲタクにはお馴染みの世界です。そこに絹織物という和テイストが加えられている事、マッドサイエンティストが女性である事が新鮮でした。バイオ改良された巨大蚕が群れをなして街を蹂躙する場面は強烈で、デビュー作からグロテスクな描写の上手さはフルに発揮されています。
本作はいかにも映画になりそうなお話ですが、もし仮に映画化されたとしても単なるB級ホラーにしかならないだろうという気がします。使い古されたジャンルを深い理解と新しい解釈と、巧みなキャラクター描写、そして何より圧倒的な筆力でリニューアルして見せるというスティーヴン・キングのような作品だからです。粗筋だけなぞってもこの面白さは絶対に再現できないだろうなと思いますね。
- 作者: 篠田節子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1993/08/25
- メディア: 文庫
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