Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『サスペンス映画ここにあり』(川本三郎)

サスペンス映画 ここにあり

サスペンス映画 ここにあり


 川本三郎氏の近著『サスペンス映画ここにあり』(2015年)について。「好きなジャンルは西部劇とサスペンス映画」と語る(あとがきより)川本氏が、1940〜60年代に公開された米英のサスペンス映画から選んだ55本を紹介しています。本書ではジャンルの括りを「フィルム・ノワール」ではなく、敢えて「サスペンス映画」としているのがミソで、犯罪サスペンスだけでなく、SF(『ボディ・スナッチャー 恐怖の街』『未知空間の恐怖 光る眼』)やホラー(『回転』)もセレクトされています。ヒッチコック等のメジャー作品、またフランスの監督の作品は除外されていて、製作された時代の世情(大恐慌、ナチの台頭、第二次世界大戦赤狩り・・・)を反映した暗くマイナーな作品が中心となっています。(故に55本中、見たことがあるのはわずか15本のみでした)


 紹介されている作品は、『ローラ殺人事件』『或る殺人』『バニー・レークは行方不明』『拳銃貸します』『ガラスの鍵』『青い戦慄』『私は殺される』『殺人目撃者』『らせん階段』『殺人者』『暗い鏡』『都会の叫び』『飾窓の女』『復讐は俺に任せろ』『仕組まれた罠』『口紅殺人事件』『殺人者はバッヂをつけていた』『湖中の女』『タイムリミット25時』『大時計』『追いつめられた男』『ヒッチハイカー』『黒い肖像』『その女を殺せ』『恐怖の土曜日』『アリバイなき男』『消された証人』『暴力団』『拳銃の報酬』『赤い家』『哀愁の湖』『過去を逃れて』『ベルリン特急』『闇の曲り角』『死の接吻』『情無用の街』『街の野獣』『暗黒の恐怖』『狩人の夜』『ボディ・スナッチャー恐怖の街』『太陽に向って走れ』『月光の女』『必死の逃亡者』『キー・ラーゴ』『五本の指』『ミュンヘンへの夜行列車』『二つの世界の男』『ハバナの男』『夢の中の恐怖』『絶壁の彼方に』『生きていた男』『三十九階段』『追いつめられて…』『未知空間の恐怖光る眼』『回転』。


 川本氏がニューシネマやペキンパーなど70年代の映画を語る時の同時代的な共感を込めた熱い文章とは一味違って、未見だった映画の見事なサスペンス演出や女優さんの美しさについて賞賛するときの意外なくらいの素直な文章には驚かされました。本書では氏の純粋な映画ファンとしての一面が垣間見れるようです。さておき、川本氏の生き生きとした紹介文を読んでいると、映画が見たくてたまらなくなってきます。未見の作品は探し出して順次チェックしていきたいと思います。


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