Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選』


 『親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選』読了。山川方夫氏については全く予備知識が無かったのですが、純文学の書き手として芥川賞直木賞の候補になる一方、「ヒッチコック・マガジン」の連載でミステリ・ファンの間でも高い評価を受けていたそうです。1965年に34歳という若さで交通事故により亡くなりました。本書は、昨年没後50年ということで、創元推理文庫より出版されたオリジナル傑作選です。


 感想を一言で言うならば、「性急過ぎるなあ」と。切れ味鋭いオチのショート・ショート(と呼びたい)が並んでいますが、好みから言うとどれも何だかストンと上手いこと収まり過ぎるという印象でした。ミステリというジャンルのフォーマットに沿って書かれているためか、すぐに人が死んじゃうし。好みの問題もあるとは思いますが、読後に「凄い作家がいたんだなあ」と衝撃を受けることはなかったです。もちろん、読む作家読む作家みんな面白くて好みに合って、しっくりと馴染むなんてことはあり得ないんで、仕方の無いことなんだろうとは思いますが。


 そんな訳で、短編群よりも、〈トコという男〉という連作が印象に残りました。作家である語り手と、変わり者の友人トコが交わす政治放談のような文学談義のような芸術談義のような単なる馬鹿話のような珍問答。連作の最終話「〝恐怖〟のプレゼント」の締めくくりは、本書で一番しっくりと来た部分。