Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『映画のディストピア』(洋泉社) 

映画のディストピア

映画のディストピア


 意欲的な映画MOOKを連発する洋泉社の新刊『映画のディストピア』読了。『ベンドシニスター』からの流れ、という訳ではないのだけれど。たまたまです。今やSF映画の一ジャンルとしてマニアだけでなく一般の映画ファンにも認知された感のある「ディストピア映画」。映画で描かれた管理社会、警察国家、システムによる相互監視社会、といった昨今洒落にならない暗い未来世界についての論考が掲載された興味深い1冊であった。


 執筆者と内容は次の通り。中原昌也ディストピア映画について」、ノーマン・イングランド「猿たちのディストピア」、小野寺生哉「フィルマゲドンとは何か」、寺沢孝秀「暗黒未来の警官たち」「殺人が娯楽になる世界」「イディオクラシー」、ナマニク「ディストピアを生きる」、高橋ヨシキ×鷲巣義明による対談「『ゼイリブ』をめぐって」、高橋ヨシキ「完全なるユートピア、そこに宿る神性 ディストピアの時代がやってきた」。巻頭の「ディストピア映画について」は、中原氏がこれまで様々なメディアや自作小説で訴えてきたことの延長線上にある内容だが、文章に氏の持ち味であるユーモアが無いのが衝撃的。それ故に氏の切実な危機感、本書の本気度が伝わってくる。執筆者が皆一様に書いているのは「SF映画の定番設定としてディストピアものを見ていたはずが、いつの間にか俺たち現実にディストピアに暮らしているぞ」ということ。これは本書に指摘されるまでもなく実感があるので、気が重くなる。


 本書ではこのジャンルに属する様々なタイトルが取り上げられている。ディストピアといえば真っ先にタイトルが上がる『1984』から、そのバリエーションである『未来世紀ブラジル』『THX1138』『2300年未来への旅』、『猿の惑星』シリーズ、荒廃した未来社会のイメージを決定付けた『ブレードランナー』や『マッドマックス2』、管理社会の娯楽として殺人ショーアップして見せる『デスレース2000年』『バトルランナー』『ハンガー・ゲーム』『ローラーボール』、世界中が馬鹿しかいなくなった未来世界を描く『イディオクラシー』、等々・・・。中でも対談と言う形で大きく取り上げられているのがジョン・カーペンターの『ゼイリブ』だ。高橋ヨシキ鷲巣義明両氏の熱い言葉を読んでいたら、久しぶりに見直したくなった。


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