Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『MEMORIA メモリア』(アピチャッポン・ウィーラセタクン)

 本日は3月11日。東日本大震災から早11年となりました。本日は所用あり某百貨店にいました。震災発生の時間(14時46分)には店内アナウンスがあり、しばし黙祷を。それにしても。あれからもう11年も経つのか。

 

 さて。

 タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の新作『MEMORIA メモリア』鑑賞。主人公ジェシカ(ティルダ・スウィントン)は、早朝、何かが爆発するような音で目を覚まします。工事現場の音かと思うが、そうではないようだった。それからしばらくして、ジェシカは何度かその音を耳にしますが、どうやら周囲の人たちには聞こえないらしい。ジェシカはその音の正体を探してコロンビアを旅するのだが・・・というお話。

 

 ジェシカは、謎の爆発音がどうやら自分にしか聞こえていない、頭の中で鳴っている音らしいと気が付き、映画の音響マン、エリナン(フアン・パブロ・ウレゴ)を訪ねてその音を再現しようとします。音を言葉に置き換えて説明し、音響マンが何度もやり直しながら音を作ってく場面はとても面白い。

 

 ジェシカは謎の音を探して旅を続けます。化石の発掘現場から、やがてコロンビアの山奥へとたどり着きます。そこでもう一人のエリナン(エルキン・ディアス)という男に出会います。この男は石ころの声(石ころとともにあった人々の声)が聞けると語ります。この世界ではどうやら過去の様々な出来事の残響がそこかしこに存在し、ジェシカの頭の中で時折ラジオの周波数が合うようにその残響を受信してしまうのだとわかります。ジェシカとエリナンが森に横たわるに至って、ここから「森の声を聞く」的なスピリチュアルな展開になったら興覚めだなあと不安がよぎりました。そしたら、件の音の正体が明かされて・・・。この終盤には、うわあそう来たかと驚愕しました。でもこれは十分にアリだなあと思いましたよ。

 

 主演はティルダ・スウィントン。瘦身で背が高い、というより背が長いと言いたくなるような独特のフォルムとクールな美貌が印象的な女優さんです。本作はロングショットが多いので、独特のフォルムが存分に生かされています。本作ではプロデュースも兼ねていて、こんな地味極まりないアートフィルムをと思いきや、彼女はデビュー作がデレク・ジャーマン作品という人なので、筋金入りですね。

 

 本作は非常にとっつきにくい雰囲気の映画なので万人にお薦めという訳ではありませんが、個人的にはかなり楽しめました。曇天が基調の暗めの映像、繊細極まりない音響効果は、没入できる劇場ならではの楽しみ。堪能しました。                   

 

 ふと、『TOKYO BLOOD』『エンジェル・ダスト』『水の中の八月』とか撮っていた90年代の石井聰互がやりたかったのって、こんな感じの映画じゃなかったのかなと、そんなことも思いました。

                                                       

MEMORIA メモリア』 Memoria                   

監督・脚本/アピチャッポン・ウィーラセタクン 撮影/サヨムプー・ムックディプローム

出演/ティルダ・スウィントン、エルキン・ディアス、ジャンヌ・バリバール、フアン・パブロ・ウレゴ、アグネス・ブレッケ、コンスタンザ・グティエレス、ダニエル・ヒメネス・カチョ                                                   

2021年 タイ/コロンビア/フランス/ドイツ/ メキシコ/中国