2022年に見て、ブログに感想を書いていなかった映画について簡単に書き記しておきます。
『キッド』 チャールズ・チャップリン
BSで放映されたチャップリンの『キッド』(1921年)。何十年かぶりの再見。これは貧困生活を笑いに変えるチャップリンの芸術。子役が可愛い。終盤に出てくる夢のシークエンスが物語上ほとんど意味が無くて異様な印象を残す。プリントが良好で、こんな感じでキートンやマルクス兄弟なども放映してくれたら嬉しいなと思う。
『勝手にしやがれ!!強奪計画』『勝手にしやがれ!!/成金計画』 黒沢清
BS12で黒沢清Vシネ時代の人気シリーズを連続放映。黒沢監督+哀川翔コンビの初期作。このシリーズは回を追うごとに描写が先鋭化していくが、第1作目『強奪計画』(1995年)はまだ普通のVシネで通用する感じ。とはいえ段ボール!ゴミ袋!浮遊する車の走行!殴打!随所に黒沢演出が。ゲストの菅田俊がいい。
シリーズ5作目『成金計画』(1996年)はスラップスティックに振り切った快作。空間の活用(特に縦構図)、人物の出し入れ、奇抜なギャグが見事に決まって気持ちいい。黒沢清にはいつかこの路線で本格コメディを撮って欲しいなあと思う。
『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』 赤井孝美(総監督庵野秀明)
アマプラにて『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』(1983年)鑑賞。いくら庵野作品とはいえ28分の8ミリ自主映画がアマプラで配信されてるのには驚いたが、確かに伝説となるだけの高クオリティだった。特撮番組のお約束で笑わせようというパロディではなく、本気で格好いいものを作ろうという姿勢が素晴らしい。何ならウルトラマンの魅力を俺が知らしめてやるくらいの気概を感じた。
『ゲット・クレイジー』 アラン・アーカッシュ
菊川Strangerにて、アラン・アーカッシュ監督『ゲット・クレイジー』(1983年)鑑賞。実に34年ぶりの再見。当時、マルコム・マクドウェルの熱狂的なファンだった友人K君に見せられたっけ。ルー・リードが出てきてびっくりした記憶。再見してみると、実に面白かった。馬鹿騒ぎを経てのラストは、ルー・リードの弾き語りを間近に聴くような粋なエンディング。マルコムの台詞catch your later!は『ブルーサンダー』でもやってなかったかな。あ、そういえば『ブルーサンダー』には本作の主演ダニエル・スターンが出てたな。
『グリーン・ナイト』 デヴィッド・ロウリー
TOHOシネマズシャンテにて、デヴィッド・ロウリー監督『グリーン・ナイト』(2021年)鑑賞。アーサー王の甥であるダメ騎士ガウェインの冒険を描くファンタジー。剣と魔法の世界を舞台にしているとはいえ、主人公の旅は全くヒロイックなものではなくて、ボコられ、逃げ回り、飢え、選択の機会には逡巡し、そもそもが「首を切り落とされに行く」というクエストが辛すぎる。荒涼とした世界を旅し、緑の騎士と対峙するクライマックスでこの期に及んでなおビビりまくるのがいい。主人公を演じるデーヴ・パテールのユーモラスな存在感がお話の陰惨な印象を和らげていた。二役を演じたアリシア・ヴィキャンデルが魅力的。曇天が基調の暗めの映像、繊細極まりない音響効果は、没入できる劇場ならではのお楽しみだった。
『グリーン・ナイト』は何故かコメディだと思い込んでいて、予想と全く違った映画で戸惑った。宣材に描かれたキツネのせいか、主演デーヴ・パテールの顔つきのせいか。もしくは、円卓の騎士と言えば反射的にモンティ・パイソン『ホーリー・グレイル』を思い出すのでそのせいか。
前の席のサラリーマンは途中で席を立って戻らなかった。後ろの席ではしゃいでいたカップル(大学の先輩後輩らしい)は鑑賞後死んだような表情で黙り込んでいたが大丈夫か。
『ドミノ 復讐の咆哮』 ブライアン・デ・パルマ
アマプラでブライアン・デ・パルマ監督『ドミノ 復讐の咆哮』(2019年)鑑賞。製作に至る経緯は分からないが、何故かデンマーク、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ合作。デ・パルマっぽい演出をする知らない監督が撮ったみたいなよそよそしい雰囲気で、あんまり魂が入ってないように見えたなあ。主人公刑事の失態と無能感は極めてデ・パルマらしいのだが。
『スチームバス/女たちの夢』 ジョゼフ・ロージー
下高井戸シネマ、特集「70-80年代(ほぼ)アメリカ映画傑作選」にて、ジョゼフ・ロージー監督『スチームバス/女たちの夢』(1985年)鑑賞。ロージーの遺作。全く予備知識なく見たので少し戸惑った。ロージーといえば『パリの灯は遠く』や『召使』等の暗いトーンが印象的なので、色んなの撮ってたんだなと驚いた。音楽がいかにも80年代のアレンジでちょっと恥ずかしいというか懐かしいというか。舞台は女性専用サウナ。様々な感情を抱えた女性たちがぶつかり合い、やがて団結して闘う。全編個性豊かな女性たちの洪水のようなお喋りと肉体で埋め尽くされている。最早亡命者の陰りは微塵もなく、とてもポジティブな映画だった。
『にわのすなば』 黒川幸則
ポレポレ東中野にて、黒川幸則監督『にわのすなば』鑑賞。バイトで訪れた知らない街をぶらぶら散歩する、物語はほぼそれだけ。狭い道路をトラックが行き交う北関東の殺風景な街並み。彼女に吹きつける風。波立ち輝く川面。彼女を迷わす手書きの地図。女性たちが昼間っから美味そうにお酒飲むのが良かった。
『にわのすなば』は既視感を覚える映画でもあって、学生時代に自主映画の上映会で死ぬほどこういうの見たと思い出した。校庭やその辺の公園で女の子たちが戯れるような。忘れ去っていたはずの、そんな題名も覚えていない沢山の映画(未満)たちの断片がアタマに呼び覚まされる不思議な感じ。
『夢の涯てまでも<ディレクターズ・カット>』 ヴィム・ヴェンダース
早稲田松竹にて、ヴィム・ヴェンダース『夢の涯てまでも<ディレクターズ・カット>』(1991年)鑑賞。休憩25分挟んでの上映。ディレクターズカット版287分。大幅増量にも関わらず、詰め込まれた要素を活かし切れていない失敗作という印象は変わらず。でも魅力的な失敗作でもあって、嫌いになれない。せめてもう少しゆったりとした漂泊感があればなあと思う。007よろしく世界の名所巡り的な前半から、閉じた内面世界に降りて行く後半。やりたい事は伝わってくるけど、『ことの次第』のヴェンダースにしてこの軽さ、楽天的なノリは何なのと当時と同じ事を思った。ムーンライダーズの曲にある「夢が見れる機械」で撮影した現代アートみたいな夢の描写は面白い。
サントラ参加アーティストは超豪華。キンクスの『DAYS』はコステロのカヴァーが流れるだけでなく、劇中セッションする場面まであった。あれは反則だろう。常連のリュディガー・フォーグラー演じる探偵ウィンターが良い。この居心地悪い大作で、彼が出てくるとホッとした。『DAYS』セッション場面は、締めのカットがウィンターで嬉しかった。
『幸せをつかむ歌』 ジョナサン・デミ
下高井戸シネマの特集上映でジョナサン・デミ熱が再燃、『幸せをつかむ歌』(2015年)鑑賞。正直言ってダサい邦題と、苦手なメリル・ストリープ主演ということで敬遠していたのだった。デミお得意の音楽物であり、ド直球の人情ものだった。デミらしくダメ人間の描き方に愛情がある。映画が終わってもちゃんと彼女たちの人生が続いてく感じがする。演奏場面も気合が入っていた。見て良かった。
『ウォーターメロンマン』 メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ
下高井戸シネマ、特集「70-80年代(ほぼ)アメリカ映画傑作選」にて、メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督『ウォーターメロンマン』(1970年)鑑賞。差別主義者の白人がある日突然黒人になってしまうという風刺コメディ。シンプルな設定で笑いの中から覚醒を促す痛快作。いかにも喜劇映画的なラグタイム調の劇伴が、主人公の変化に合わせて次第にソウルフルに変わっていく。ブラックパワーへと至るラストも良かった。主人公の妻を演じたエステル・パーソンズって『俺たちに明日はない』の人か。
『すずめの戸締まり』 新海誠
年末にどうしても映画館行きたくて、近所のシネコンのレイトショーへ。何でもいいから時間が合うやつ見ようとしたら、映画館納めはまさかのこれになった。新海誠監督『すずめの戸締まり』。予想外に面白かった。主人公がひたすらに移動し続ける作劇が映画的で好印象。また人間、猫、椅子、また様々な乗り物、それぞれの走りを描き分けるアニメならではの楽しさ。『君の名は。』ではサービス過剰な演出にうんざりしたが、本作はほどほどで。こう言っては何だが、かなり直球の震災エクスプロイテーションだったので、被災者のひとりとしては複雑な思いはある。が、あの行き場のない理不尽な悲しみに、物語をもって落とし所を見つけようとする監督の意図は充分に伝わってきた。これはこれでありだろう。
2022年劇場鑑賞の新作限定で好きな10本選んでみた。今年は『断絶』『WANDA』『ゲットクレイジー』『メルビンとハワード』他旧作も充実していた。配信の黒沢清『彼を信じていた13日間』も凄かった。
『MEMORIA メモリア』
『スパークス・ブラザーズ』
『リコリス・ピザ』
『NOPE/ノープ』
『カモン カモン』
『彼女のいない部屋』
『グリーン・ナイト』
『さかなのこ』
『にわのすなば』
『ほとぼりメルトサウンズ』
アクション映画がないことに我ながら驚いた。昨年で言うと『モンタナの目撃者』クラスのアクション映画に出会えなかったのが残念。2023年はどんな年になるだろう。映画館にはもっともっと通いたいなと思う。