Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ゴダールと女たち』(四方田犬彦)

 

 

 先日、劇場でジャン=リュック・ゴダール監督『勝手にしやがれ』『気狂いピエロリバイバルの予告編を見ました。4Kリストア版だったかな。ゴダールって今でも神通力があるんだなと感心しました。『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』初公開時はまだ生まれてもいないので、自分も見たのは学生時代にリバイバル公開された時でした。こうして繰り返しリバイバル公開されることで、ゴダール作品は各時代に新しいファンを獲得してきたのだなあと。『気狂いピエロ』は、昨年ベルモンドが亡くなった時に追悼として久しぶりに再見しました。画面の強度、主演2人のオーラが凄くて、やはり突出した映画だなあと改めて思いました。『勝手にしやがれ』の方は長らく見直してませんが、ジーン・セバーグ故に我が心の1本です。

 

 という訳で。四方田犬彦ゴダールと女たち』(2011年)読了。本書は四方田氏初めての書き下ろしゴダール論とのこと。ゴダール映画の特徴と魅力を端的に語り、読み物としても非常に面白い。また氏の90年代の思い出と岡崎京子に捧げられた一冊でもあります。

 

 表題の「女たち」とは、ゴダール作品に出演した女優たち、ジーン・セバーグ(『勝手にしやがれ』)、アンナ・カリーナ(『気狂いピエロ』他)、アンヌ・ヴィアゼムスキー(『中国女』他)、ミリアム・ルーセル(『カルメンという名の女』)、ジェーン・フォンダ(『万事快調』)、そして現在の伴侶である映画監督アンヌ=マリ・ミエヴィル(『そして愛に至る』他)。ゴダールの作品が今でも風化せずポピュラリティを持ち続けていられるのは、彼女たちの魅力に負うところが大きいと思います。例えば、ゴダール監督の長編第2作『小さな兵隊』(1960年)にはのちに結婚するアンナ・カリーナが出演しています。アルジェリア戦争を扱ったことでしばらく上映禁止になっていたいわくつきの作品で、テーマは重く、延々続く拷問(バスルームでの水責め)場面があったりして、ラストも救いがないし、別に楽しい映画ではありません。しかし『小さな兵隊』について思い出すのは、光輝くアンナ・カリーナの姿です。『中国女』や『ワン・プラス・ワン』におけるアンヌ・ヴィアゼムスキーもしかり。

 

 本書において、ゴダールは「映画の革命的異端児」であり「女に逃げられるという天才的才能を持つ」人物と要約されています。「女に逃げられるという天才的才能」って・・・と思いますが、そんな切り口でゴダールを語る評論はあんまり読んだことが無いので面白い。大島渚ゴダール評が引用されていて、曰く「ゴダールは自己変革に程遠い女優に自己変革を迫り、去られる才能」と。確かにゴダールと主演女優(時に妻)との関係はこの繰り返しのようです。ゴダールの幻になった浮気相手ミリアム・ルーセルの1件は知らなかった。

 

 本書で一番興味をひかれたのは、ゴダールとは関係ないですが、ジーン・セバーグの元夫ロマン・ギャリーについてでした。ロマン・ギャリーは作家であり、映画監督。セバーグが謎の死を遂げた後、1980年に拳銃自殺している。『ペンチャーワゴン』撮影時のセバーグとクリント・イーストウッドの関係を知りつつかばったというエピソード、セバーグ主演で映画『ペルーの鳥』(1968年)を監督、そして何とフラーの『ホワイト・ドッグ 魔犬』(1981年)の原作者なのであった。どんな人だったんだろう。

 

 

 

 

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