Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『シェラ・デ・コブレの幽霊』(ジョセフ・ステファノ)

 

 Amazonプライムビデオに伝説のカルトホラー『シェラ・デ・コブレの幽霊』が入ったと聞いて速攻チェック。心霊調査員ネルソン(マーティン・ランドー)の元に、広大な土地に住む資産家から「死んだはずの母親から毎晩電話がかかってくるので調査して欲しい」という依頼が舞い込む。ネルソンは資産家の妻ヴィヴィア(ダイアン・ベイカー)と、母親の眠る納骨堂を調査に訪れるが、血塗れの女の幽霊が現れてヴィヴィアに襲いかかった・・・。というのが冒頭の場面。いきなり幽霊がババーンと出てきてしまうので、この先大丈夫かなと思ったら、意外にヒネリの効いたお話で最後まで探しめました。

 

 神出鬼没で主人公たちを脅かす女の幽霊はネガポジ逆転の素朴な映像表現ですが、かなり気味悪くインパクトがあります。恐怖描写でいいなと思ったのは、冒頭の納骨堂の場面でヴィヴィアに風が吹き付けるところでした。ここのヴィヴィアの取り乱しっぷりは尋常ではなくてかなり怖い。幽霊と因縁があるのが実は・・・というその後の展開にもつながる重要な場面でした。

 

 ただし、映画として見るとどうもつじつまの合わない部分や唐突なところが感じられます。実はこの映画、元々テレビシリーズのパイロット版として製作された中編『The Haunted』(54分)にエピソードを追加して長編に仕上げたものということです。確かに、登場人物の設定、お話の規模感、説明不足の部分などTVシリーズパイロット版と考えると納得がいきます。マーティン・ランドー演じる主人公は高名な建築家であり、心霊調査員もやっているという設定。建築家として古い建物の修復に関わっていく中で超常現象を体験して(古い物件には科学で証明できない何かが憑りついていることがある)、この世界に足を踏み入れたと語る。この設定がすごくいいです。現実主義者で心霊現象に懐疑的な家政婦フィンチさん(ネリー・バート)とのコンビも面白く、TVシリーズでは毎回この2人の対話が重要なポイントになったのだろうなと思われ、実現しなかったのが惜しまれます。中盤に主人公が海岸で若い女性をナンパする場面がありますが、その女性はそれっきり出てきません。もしかして次のエピソードにつながるキャラクターだったのかな。

 

 監督はTV『アウターリミッツ』等を手掛けていたジョセフ・ステファノ。ヒッチコックの『サイコ』(1960年)の脚本家として知られる人物です。撮影は何と『暴力脱獄』『冷血』『明日に向って撃て! 』『グライド・イン・ブルー』『イナゴの日』等で知られるコンラッド・L・ホール。  

 

『シェラ・デ・コブレの幽霊』 The Ghost of Sierra de Cobre 

監督・脚本/ジョセフ・ステファノ 音楽/ドミニク・フロンティア 撮影/コンラッド・L・ホール 

出演/マーティン・ランドー、トム・シムコックス、ダイアン・ベイカー、ジュディス・アンダーソン、ネリー・バート、レナード・ストーン 

1964年 アメリ