Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

映画感想その2

 昨日の続きです。最近見た映画、または大分前に見たけど感想を書きそびれていた映画について、ここらでまとめて感想を書き記しておきます。


『コングレス 未来学会議』(アリ・フォルマン) 

 ポーランドのSF作家、スタニスワフ・レムによるスラップスティックなSF小説『泰平ヨンの未来学会議』の映画化。原作を読んであの無茶苦茶なお話をどうやって映像化するのかと思っていた。監督は実写とアニメーションを併用し、主人公を泰平ヨン氏から女優のロビン・ライト(本人役)に変更するなど設定にも大胆なアレンジを加えているが、原作の持ち味は損なわれていないと思う。損なわれていないどころか、さらに感動的になっているではないか。久しぶりにいいSF映画を見た!という嬉しさでいっぱいである。主演は、自分自身を対象化する難しい(ある意味嫌な)役柄を演じきったロビン・ライトハーヴェイ・カイテルポール・ジアマッティら芸達者が脇を締める。カイテルは主人公の長年の友人であるマネージャー役で感動的な名演技を見せる。あんな良い人の役は珍しいのではないかなあ。 

(『コングレス 未来学会議』 The Congress 監督・脚本/アリ・フォルマン 撮影/ミハウ・エングレルト 音楽/マックス・リヒター 原作/スタニスワフ・レム 出演/ロビン・ライトハーヴェイ・カイテルポール・ジアマッティ、コディ・スミット=マクフィー 2013年 123分 フランス/イスラエル





トリュフォーの思春期』(フランソワ・トリュフォー) 

 午前十時の映画祭にて鑑賞。客席はオールドファンの中高年以上で若者は皆無であった。だってトリュフォーだよ、ヌーヴェルヴァーグだよ、若い人たちにもどんどん見に来て欲しいんだけど。『思春期』と呼ぶにはまだ幼い外見の子供たちの群像。大きなストーリーがあるわけではなくて、軽いスケッチを積み重ねた小品といった趣の映画。トリュフォーが思い入れていると思われる貧乏な不良少年のエピソードが印象的だ。少年の暗い目つき、家庭内暴力を受けて家に入れず佇む姿など、忘れがたい印象を残す。カップル誕生のラストも爽やか。 

(『トリュフォーの思春期』 L' ARGENT DE POCHE 監督/フランソワ・トリュフォー 脚本/フランソワ・トリュフォー、シュザンヌ・シフマン 撮影/ピエール=ウィリアム・グレン 音楽/モーリス・ジョーベール 出演/ジョリー・デムソー、フィリップ・ゴールドマン、リシャール・ゴルフィー、シルヴィー・グレゼル 1976年 105分 フランス)




ヒッチコック』(サーシャ・ガヴァシ) 

 サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックの伝記映画、というわけではなくて、『サイコ』製作の舞台裏を描くバック・ステージもの。『サイコ』のメイキング本が原作とのことで、ヒッチコックとその妻アルマはもちろん、出演者のジャネット・リーアンソニー・パーキンスヴェラ・マイルズ、脚本家のジョゼフ・ステファノ、デザイナーのソール・バス、作曲家のバーナード・ハーマンら関係者が実名で登場する。TV『アウターリミッツ』のクリエーターであり、伝説のホラー『シェラ・デ・コブレの幽霊』で知られる脚本家ジョゼフ・ステファノを演じるのは、『ベストキッド』で一世を風靡したラルフ・マッチオ
 本作で描かれるヒッチコック像がどこまで真実なのかは分からない。思うように進まない撮影に苛立ち、映画の評判に気を揉み、奥さんの浮気を疑って・・・とあれやこれやくよくよ悩みまくるヒッチコック。奥さんの尻に敷かれている(これは真実だったのかも)、悩み多き人間味あふれるヒッチコックなんて、面白いですかね。こんなの別に見たくなかったよなあ、というのが正直な感想であった。ヒッチコック観の違いというか。
 ロバート・ブロックによる原作『サイコ』は、エド・ゲイン事件をヒントに描かれたものだ。撮影が思うように進まず、映倫との攻防や妻とのすれ違いで疲労困憊したヒッチコックの目には、次第にエド・ゲインの幻が見えるようになる。エド・ゲイン(演じるのはダミ声が印象的なマイケル・ウィンコット)は、『トゥルーロマンス』のエルヴィス・プレスリーみうらじゅんアイデン&ティティ』のボブ・ディラン、古くは『ボギー!俺も男だ』のボギーのごとくヒッチコックの前に現れては、彼にアドバイスを与えるのであった。って、どう思います?これ。本作で最も違和感を感じたのはこの演出だったなあ。 

(『ヒッチコック』Hitchcock 監督/サーシャ・ガヴァシ 脚本/ジョン・マクラフリン 撮影/ジェフ・クローネンウェス 音楽/ダニー・エルフマン アンソニー・ホプキンスヘレン・ミレンスカーレット・ヨハンソンジェシカ・ビールジェームズ・ダーシーマイケル・スタールバーグマイケル・ウィンコットダニー・ヒューストン 2012年 98分 アメリカ) 


ヒッチコック (字幕版)

ヒッチコック (字幕版)



『マーシャル・ロー』(エドワード・ズウィック) 

 『アメリカ映画100』シリーズ(芸術新聞社)の『90年代アメリカ映画100』で紹介されていたのを読んで興味を持った一本。N.Y.で爆弾テロ事件が勃発し、戒厳令が敷かれる。米軍、FBI、CIAがそれぞれの思惑でテロリストを追うが・・・というお話。9.11.同時多発テロ事件の前に作られた映画だが、事件を予見していたような展開で今見ると実に興味深い。ブルース・ウィリスが出ていたり、結局犯人は内輪の狭い話だったり、いかにもハリウッド映画じみたわかり易さというか納まりの良さはあるものの、極めて真面目なタッチで描写にも迫真力があってなかなか良かった。さておき、ハリウッド映画のネタにされるくらい、1998年当時からアメリカ国内ではホットな話題だった訳で、皆知っていながらそのまま歯止めが掛けられずに9.11.までなだれ込んでしまったのだなあと思うと複雑な気持ちになる。 

(『マーシャル・ロー』THE SIEGE 監督/エドワード・ズウィック 脚本/ローレンス・ライト、メノ・メイエスエドワード・ズウィック 撮影/ロジャー・ディーキンス 音楽/グレーム・レヴェル 出演/デンゼル・ワシントンアネット・ベニングブルース・ウィリストニー・シャルーブ、サミ・ブアジラ、アーメッド・ベン・ラービー 1998年 118分 アメリカ)


90年代アメリカ映画100 (アメリカ映画100シリーズ)

90年代アメリカ映画100 (アメリカ映画100シリーズ)



『NOT QUITE HOLLYWOOD』(マーク・ハートリー) 

 自国の映画史の本に載っているのはいわゆる名画ばかりで、慣れ親しんだB級娯楽映画が全く採り上げられていない事に憤った監督が、「俺が真のオーストラリア映画史を世に示すのだ!」と熱い想いをぶつけたドキュメンタリー。協力(出資)を仰いだのがヲタク番長タランティーノだったのは大正解と思われ、「正しいオーストラリア映画史」を学ぶにはうってつけの興味深い映画に仕上がっている。本作が紹介するのは70年代から80年代にかけて、オーストラリア娯楽映画黎明期に狂い咲いたエロとバイオレンスてんこ盛りのエクスプロイテーション映画(Ozploitationと呼ぶのだそうだ)。『マッドマックス』はもちろん、『マッドストーン』『ジャンボ・墜落/ザ・サバイバー』『パトリック』『キラーカーズ/パリを食べた車』といった(好き者には)お馴染みのアクション映画やホラー映画が満載されている。近年日本公開された『荒野の千鳥足』の映像も。出演はジョージ・ミラーピーター・ウィアーテッド・コッチェフリチャード・フランクリン、フレッド・スケピシ、ジョン・シールといったオーストラリア出身の映画人たち、デニス・ホッパー(フィリップ・モラ監督『マッド・ドッグ・モーガン』1974年に主演)、クエンティン・タランティーノ、、ジェームズ・ワンリー・ワネル他多数。

(『NOT QUITE HOLLYWOOD』NOT QUITE HOLLYWOOD: THE WILD, UNTOLD STORY OF OZPLOITATION! 監督/マーク・ハートリー 出演/クエンティン・タランティーノ、ブライアン・トレンチャード=スミス、ジョージ・ミラー、フィリップ・モラ、ジョン・シールデニス・ホッパー 2008年 103分 オーストラリア/アメリカ)

この項続く。