Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『イニシェリン島の精霊』(マーティン・マクドナー) 

 

 マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』鑑賞。TOHOシネマズシャンテにて。アイルランドの離島を舞台に、友人から突然絶縁を告げられた男の戸惑いと、事態の意外な顛末を描く。これは変な映画だったなあ。予告編くらいしか予備知識なく見たので、まさかこんなお話とは思わなかった。

 

 離島の大自然、愛らしい動物たち。娯楽に乏しく2時からパブで飲んだくれてる人々。閉鎖的な島民たちの人間関係と質素な生活のスケッチ。アイリッシュ民謡の調べ。映像は堂々たる文芸映画風。

 

 メインのお話は2人の男の諍い。自分が何で拒絶されたのか理解できずしつこくしつこくつきまとい空回るコリン・ファレル。一方ブレンダン・グリーソンの拒絶の意思は固く(理由は「退屈だから」「時間を無駄にしたくない」)、自傷も辞さない構え。最初はユーモラスな男同士の痴話喧嘩みたいなお話なのかと思って見ていると、次第にグロテスクな様相を呈していきます。あのコリン・ファレルブレンダン・グリーソンの奇妙な関係は何を表しているのか。

 

 自分は自らの経験と照らして、交友関係の終焉を描いた比較的リアルなドラマとして胸を痛めながら見ていました。そしたら友人の妙愛博士は「グリーソンは悪魔に狙われたファレルを救うために指や命まで差し出したのだ」という解釈。自分はどうもスピリチュアル方面の想像力に欠けているのでそういった解釈は想像もしていなかった。別に「悪魔に狙われ」ちゃいないと思うけど、「退屈」と置き替えたらまあそうかもなと。

 

 劇中では対岸の本国では内戦が続いているという描写があり、登場人物たちもそれに何度か言及する。何を争ってるのかよくわからない、昔は「敵はイギリス」と分かりやすかった、なんていう台詞も。しかるに2人の関係は戦争(と言うか全ての争いごと)を表しているというのが最もしっくりくる解釈なのかな。それにしても妙な映画だった。