Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『君たちはどう生きるか』(宮崎駿)

 宮崎駿監督最新作『君たちはどう生きるか』鑑賞。先入観なく見て欲しいという意図からか、一切宣伝活動無しで公開された本作。設定やストーリーに関する予備知識は無いとはいえ、やはり「あの宮崎駿」作品という目で見てしまう訳で、全く先入観なしでとはいかないのが難しいところ。

 

 前作『風立ちぬ』から10年、82歳の監督の思考と嗜好、語りのリズムがダイレクトに刻印された作家の映画、に見えた。どこか語りの段取りをすっ飛ばしているところがあり、やけに丁寧に描写される部分とあっさり省略されてしまう部分との差が大きくて、その濃淡が映画を分かりにくくしているなと思う。この点は『ハウル』辺りから感じていたことで、もはやオーソドックスな語りには興味が無くなったのだろうなと思う。ファンタジーという題材の割に動きの快楽に乏しいのも、最早アクションをやろうという気は無いのだろうなと思う。時代設定や人間関係には自伝的要素が入ってるのかな。いろんな意味でこれは老人の映画だなあと思う。主人公が自ら付けた側頭部の傷、手作りの弓矢、かつて図書室で失踪した大伯父、など印象に残る細部はあるものの、ちょっと薄い。

 

 レイトショーにも関わらず客席は8割方埋まっていて、ジブリと宮崎アニメのブランド力を感じた。駿が本作のターゲットにしているであろう若い観客は楽しめたのかな。主人公と同世代の観客はどう受け止めたのだろう。個人的には、タイトルに感じる生理的な嫌悪感が覆されることはなかった。あのタイトルこそがメインテーマとすれば、お前が世界の調和をコントロールするのだという申し入れを拒否した主人公はこの後どんな生き方を選んだのだろう。Twitterなどで感想を拾ってみると、意外に若い観客は好意的に受け止めているようだ。ならば自分のようなオヤジの不平不満は気にしなくてもいいのかな。ちゃんと伝わったのであれば。