Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『我輩はカモである』(ドナルド・E・ウェストレイク)

我輩はカモである (ハヤカワ・ミステリ文庫)

我輩はカモである (ハヤカワ・ミステリ文庫)


 ドナルド・E・ウェストレイク『我輩はカモである』God Save the Mark(1967年)読了。ウェストレイクのユーモラスな持ち味が存分に楽しめる傑作ミステリーで、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞の名作です。


 『我輩はカモである』と言えばマルクス兄弟の傑作コメディ映画ですが、そこから借用されたと思しき『我カモ』のタイトルは本作にぴったりです。何しろ主人公フレッド・フィッチは「我輩はカモである」と名札をぶら下げて歩いているようなお人好しで、様々な詐欺に遭っては騙されてばかりの毎日なのです。そんなフレッドの元に、会ったこともない叔父の遺産が転がり込んできます。叔父というのは実は大物詐欺師で、フレッドが相続したのは何と南米のマフィアをカモった危険なお金!謎の女に付きまとわれ、警察に小突きまわされ、遺産を狙うギャングに脅かされて、果たしてフレッドの運命やいかに・・・というお話。


 気がつくとカモられているフレッドの冴えない日常を描く冒頭(しょっちゅう詐欺の被害届を出すので警察の担当者とはすでに友達になっている)、遺産騒動に巻き込まれたフレッドがいろんな追っ手から逃げ回るスラップスティックな中盤、カモられてばかりの人生なんて冗談じゃないとフレッドが(彼なりに)反撃に転じる後半、とウェストレイクの軽快な筆致は絶好調。主人公フレッドの悪戦苦闘ぶりは、常に加害者側であるマルクス兄弟というよりは、バスター・キートン的ですね。『フレッド君の栃面棒』みたいな。主人公がジタバタと悪あがきすればするほど観客(読者)は爆笑です。


 キャラの立ち具合、ユーモア、快調なテンポ、と正に最良のアメリカ映画のごとき愉快な小説でありました。思うように映画見れない憂さを晴らしてくれましたよ。


我輩はカモである [DVD]

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