未見だったジャームッシュのゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』(2019年)鑑賞。出演者はビル・マーレイ、アダム・ドライバー、ティルダ・スウィントン、クロエ・セヴィニー、スティーヴ・ブシェミ、ダニー・グローヴァー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、イギー・ポップ、トム・ウエイツ、セレーナ・ゴメスら錚々たる(そしてこのジャンルらしからぬ)顔触れ。
ゾンビは墓場の土中から這い出して来るオールドスクールなタイプ。絶対にダッシュしたりしないロメロ系ゾンビで、田舎の寂れた通りをのろのろと歩きまわり、バックには呑気にC&Wが流れたりする。ゾンビ描写そのものは意外にちゃんとしている印象。首を切り落とすと血飛沫の代わりに土くれ(乾いた血?)がパっと飛び散るのが新機軸だった。
映画としてはお友達を集めてのゾンビごっこみたいなユルううい出来。あんまり評判悪かったので擁護したいところなんだけど、ちょっと途方に暮れちゃうというか。パロディとして上手く機能してないのは、ホラージャンルのお約束にツッコミを入れる存在が2人もいて(アダム・ドライバーとケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)、しかも全体を俯瞰する存在が1人いて(トム・ウエイツ)、さらにジャンルを超越した存在も1人いたりして(ティルダ・スウィントン)、視点の置き所がブレているからだと思う。ウェス・クレイヴン『スクリーム』やエドガー・ライト『ショーン・オブ・ザ・デッド』のようにジャンルのお約束へのツッコミで映画を面白おかしく進めていくのはジャームッシュ向きではないように思われる。しかもアダム・ドライバーのツッコミが「こんな展開はシナリオに書いてなかった」とかジャンルのお約束を超えてメタの領域なんでまた混乱する。ジャームッシュ本来の視点はトム・ウエイツ演じる世捨て人(全体を俯瞰し世の無情を憂う)なんだと思うけど。
ジャームッシュは「ゾンビは生前の活動を反復する」という部分に着目して描いているので、それならいっそのこと、町民全員が既にゾンビ化した田舎町が舞台だったらよかったのにと思う。ゾンビたちはゾンビたちなりに日常生活を送っている。そこにセレーナ・ゴメスら旅行者が訪れて・・・みたいなお話ならば、もっとジャームッシュらしかったかも。葬儀屋(ティルダ・スウィントン)だけはゾンビ化してなくて淡々と仕事を続けてたりして。