Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『少年、機関車に乗る』(バフティヤル・フドイナザーロフ)

 

 菊川Strangerにてバフティヤル・フドイナザーロフ特集。といってもこれまで全くノーチェックの監督だったのでどんな作風かわからず、予備知識はほとんどゼロ。タジキスタン出身、26歳で監督デビュー、すでに49歳の若さで亡くなっている、という背景だけを押えて映画館へ。デビュー作『少年、機関車に乗る』(1991年)鑑賞。

 

 17歳の兄と7歳の弟が、遠くの町で暮らす父親に会うため機関車で旅に出る。兄の目的は父親に弟を預けること。土を食べる悪癖を持ち、悪戯ばかりして手間のかかる弟の世話に手を焼いていたのだ。兄弟はおばあちゃんと3人暮らし、父親は愛人と別の街に暮らしていて、母親は出てこない。不良仲間と危険なバイトにも手を出して、小さな町で兄の抱えた閉塞感が伝わってくる。

 

 表題の通り兄弟が乗った機関車が走りだすと、映画は開放的な楽しさに満たされる。乾いた広大な土地を走る古い機関車。レールの軋みや車体の振動、頬に受ける風まで感じられそうだ。並走する馬、通り過ぎる家々、見送る子供たちの姿。機関車が立ち寄る場所で行き交う人々のスケッチ。ヴェンダースの『さすらい』ではないけれど、交通機関の走行ぶりを的確に捉えた映像はいつまでも見ていても飽きない。妙に感傷的な音楽、モノクロの映像は、ノスタルジックな停滞に陥らない絶妙な塩梅。子役の生々しい表情、特に弟がいじらしかった。

 

 クラシック映画かと思いきや、これは90年代の作品。交通機関と子供、良い映画はそこから何度でも生まれるのだな!見に行って良かった。