Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『カード・カウンター』(ポール・シュレイダー)

 

 ポール・シュレイダー監督『カード・カウンター』鑑賞。菊川Strangerにて。主人公は軍刑務所で8年間の服役を終え出所したウィリアム(オスカー・アイザック)。服役中に覚えたカード・カウンティングのテクニックを使いギャンブラーとして第二の人生を送っていたが、因縁の人物との出会いで再び暴力の世界へと足を踏み入れる。

 

 前作『魂のゆくえ』(2017年)はシュレイダーが自作や脚本作で描いてきた人物像の集大成のような作品だった。ブレッソン田舎司祭の日記』をはじめとしたシュレイダーが思い入れている名作からのあからさまな引用も微笑ましく、老成した作品ではないところがとても好きだった。『カード・カウンター』も、暴力の世界を経て孤独に生きる男、自己鍛錬、日記、贖罪というテーマ、そして殴り込み!と『魂のゆくえ』をさらに深化させた徹頭徹尾シュレイダー色の大傑作。これは最高だった。個人的には今のところ本年見た新作の中でベスト。

 

 重い電子音が響くオープニングから、ギャンブラーのストイックな生活描写(モーテルの部屋でのルーティンワークには慄然とする)、回想シーンの陰惨な暴力、『ハスラー2』を思わせる師弟のロードムービー感、すれっからしの筈なのに意外に純な男と女、クライマックスの流血沙汰の見せ方、そして臆面もないブレッソン・オマージュに泣けるラスト・ショットまで、全編しっくりと馴染んだ。

 

 出演オスカー・アイザックティファニー・ハディッシュ、タイ・シェリダン、ウィレム・デフォーほか。オスカー・アイザックの面構えに説得力がある。最近良い人の役も多いウィレム・デフォーが本来のおっかない存在感を発揮。出演場面は少ないがさすがのインパクト。