Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『解放されたフランケンシュタイン』(ブライアン・W・オールディス)

 『フランケンシュタイン/禁断の時空』(1990年)という映画がありまして、B級映画の帝王ロジャー・コーマンの(目下のところ)最後の監督作です。日本劇場未公開のヴィデオ・スルーで、リリース当時(1992年)レンタルで見ました。ジョン・ハートラウル・ジュリアブリジット・フォンダら地味ながら俳優は意外に豪華。古典的なモンスター物から『バック・トゥ・ザ・フューチャー』までもパクッてしまう臆面のなさ、盛りだくさんな内容をわずか86分で無駄なく見せきる職人芸はさすがコーマン先生、筋金入りだなあと思いましたね。しかも絶対にこういうの好きで撮ってるだろうし。見た当時は原作者が誰かなんて気にも留めなかったんですが(何しろこの題名なんで)、実はSF界の大御所ブライアン・W・オールディスだと知って驚愕しました。


 で、その原作となる『解放されたフランケンシュタイン』Frankenstein Unbound(1973年)を探して読んでみました。『地球の長い午後』等で知られるSF界の大御所オールディスの、というよりも、『フランケンシュタイン/禁断の時空』の原作、というアプローチで読んでしまったせいでしょうか。これが実に・・・。てっきりコーマン先生がオールディスの難解な原作をオレ流にざっくりアレンジしたものかと思い込んでいたのですが、実際原作を読んでみると「あれってこんなに原作に忠実だったのか」と驚いてしまいました。


 21世紀の科学者ジョゼフ・ボーデンランドは時空の裂け目に落ち込んで、19世紀のスイスにタイムスリップしてしまう。ボーデンランドはそこでフランケンシュタイン博士と彼の創り上げた怪物と遭遇、さらに『フランケンシュタイン』を執筆中のメアリ・シェリーや詩人のシェリーやバイロンと知り合う。虚実が入り乱れたこの世界で、ボーデンランドはフランケンシュタインの怪物を追跡するが・・・というお話。オールディスは著作『十億年の宴』(SF史の研究書)で『フランケンシュタイン』をSF文学の始祖と位置づけており、本作は大先輩メアリ・シェリーへのオマージュであろうと思われます。


 粗筋や人物設定は映画とほぼ一緒(・・・ではなくて、映画が小説とほぼ一緒、か)、映画で科学者役のジョン・ハートが乗っていた未来カーもちゃんと出てきます。が、それを『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のデロリアン風に描いてしまうのが何ともコーマン流です。終盤に登場する氷河に覆われた未来文明の廃墟とそこに佇む怪物も映画のイメージとそんなに遠くない(・・・ではなくて、映画版は原作のイメージとそんなに遠くない、か)。原作を読んで、コーマン先生の映画を見直したくなりましたよ。


(『フランケンシュタイン・禁断の時空』FRANKENSTEIN UNBOUND 監督/ロジャー・コーマン 脚本/ロジャー・コーマン、F・X・フィーニー 撮影/アルマンド・ナンヌッツィ、マイケル・スコット 音楽/カール・デイヴィス 出演/ジョン・ハートラウル・ジュリアブリジット・フォンダ 1990年 86分 アメリカ)


解放されたフランケンシュタイン (1982年) (海外SFノヴェルズ)

解放されたフランケンシュタイン (1982年) (海外SFノヴェルズ)


フランケンシュタイン?禁断の時空?(字幕 [VHS]

フランケンシュタイン?禁断の時空?(字幕 [VHS]