Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『もりのなか』『またもりへ』(マリー・ホール・エッツ)

もりのなか (世界傑作絵本シリーズ)

もりのなか (世界傑作絵本シリーズ)


 ウチの娘(5歳)は今のところ順調に読書好きの子供に育ってくれていて、とても嬉しい。図書館へ行くと、たくさんの本を抱えて持ってきては熱心に読みふけっている。現在は松谷みよ子の『ちいさいモモちゃん』というのを読んでいる模様。


 こちらもそんな娘につきあってたくさんの絵本や児童書を読んだ。そんな中で特に印象的だったのが、マリー・ホール・エッツ作『もりのなか』『またもりへ』だった。「お薦め絵本」とかいう頁には必ず登場するタイトルなので定番となっているようだ。それも納得の素晴らしい作品だと思う。


 『もりのなか』In The Forest(1944年)。これは最初図書館から借りて読み聞かせをしていたのだが、とても気に入ったので本屋さんで購入した。森へ散歩に出掛けた男の子が、ライオンや象、熊、カンガルー、猿などさまざまな動物と出会い、一緒に森を散歩するというほとんどそれだけのお話。絵本といえばカラフルな色彩を想像するが、『もりのなか』はモノクロームで描かれている。版画みたいなタッチが何とも味わい深く、飽きることがない。

「ぼくは、かみの ぼうしをかぶり、あたらしい らっぱを もって、もりへ、さんぽに でかけました」
 

 続編『また もりへ』ANOTHER DAY(1953年)も良い。

「わいわい がやがや いう こえが きこえてきました。あまり さわがしいので、ぼくは、どうしたのだろうと おもって、もりへ みにいきました」

 再び森へ入った男の子を動物たちが待っている。動物たちはみな自分の得意なことをやって、誰が一番いいかコンテストをしていたのだった。男の子が笑うと、動物たちはみな「一番いい!」と驚く。動物は笑うことができないからだ。物語の最後で男の子は『もりのなか』と同様に、迎えに来たお父さんとうちへ帰っていく。お父さんが男の子の話を聞いて「わたしもお前みたいに笑ってみたいよ」と言う。


 自分の見る夢はほとんどいつもモノクロームだ。ごくたまにカラーだった場合、目覚めた時に「今朝の夢は色付きだった!」と強い印象がある。エッツの絵柄は夢の感覚を非常に上手く再現していると思う。ついさっきまで非現実の世界だったのに、肉親が登場してすっと現実世界へ移行する辺りも夢の感覚ではないかと思う。


 絵本を読む場合、どうしたって自分としては作者(大人)の目線で向き合うことになる。それ故に『またもりへ』で息子を迎えに来たお父さんの「わたしもお前みたいに笑ってみたいよ」という台詞に泣けるわけだが、本書のメインターゲットたる子供には恐らく何のことなのか分からないだろうなあと思う。夢(空想)と現実の間に位置する子供時代に生きている娘にはきっと。


また もりへ (世界傑作絵本シリーズ)

また もりへ (世界傑作絵本シリーズ)