Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『映像の世紀バタフライエフェクト ヴェルヴェットの奇跡 革命家とロックシンガー』

 

 

 5/9に放映されたドキュメンタリー番組『映像の世紀バタフライエフェクト ヴェルヴェットの奇跡 革命家とロックシンガー』見る。チェコスロバキア民主化革命とアメリカのロックバンド「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」の知られざる関係を描く興味深いドキュメンタリー。1960年代後半から2010年代に至る時代の流れを45分にまとめているので、かなり図式的に語られているのだろうなと思いつつも、ロック(音楽)の力を感じさせる感動的な番組でありました。

 

 後に革命家となる劇作家が渡米中に購入したヴェルヴェット・アンダーグラウンドのレコードを祖国に持ち帰り、それがチェコスロバキアの音楽シーンに影響を与えていく。「プラハの春」と呼ばれる改革運動がソビエト連邦軍チェコスロバキアへの侵攻により潰され、文化・芸術が厳しい検閲を受け統制下に置かれた時代にも、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドと彼らの影響を受けたバンドの音楽は自由の象徴として民衆の中で生き続けた。当のルー・リードはそれを知る由もなかったという。やがて改革運動が成功し、政権は交替、革命家とロックシンガーは邂逅を果たす。インタビューやホワイトハウスでの再会で、若干戸惑い気味で素の表情を見せるルー・リードがいい。

 

 偶然にも、先日友人のギニー師がブログでヴェルヴェット・アンダーグラウンド『WHITE LIGHT/WHITE HEAT』について書いていて、久しぶりに聴いてみようかと思っていたところでした。https://guineaonthewall.at.webry.info/202205/article_1.html番組では『WHITE LIGHT/WHITE HEAT』もちゃんと出てましたね。

 

 

 番組を見て思い出したのは、昨年秋に見に行った美術展「ピーター・シスの闇と夢」展(練馬区美術館)。ピーター・シスは全く知らない作家でしたが、作品はどれも素晴らしく、館内は盛況でした。一緒に行った娘も熱心に見ていました。

 

 シスはチェコスロバキア出身のアニメーション作家、画家。「プラハの春」の頃は大学生で、正に番組に登場した若者たちの世代なのでした。ソ連体制下の「正常化」も経験し、後にアメリカへ亡命。有名な『アマデウス』のポスターは、同じくチェコ出身のミロシュ・フォルマンの依頼で製作したものでした。番組を見て、ピーター・シスやミロシュ・フォアマン、イヴァン・パッサーらが亡命せざるを得なかった困難な状況、またフィリップ・カウフマンの『存在の耐えられない軽さ』の背景に対する理解の助けにもなりました。