- アーティスト: THE BEATNIKS
- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 1993/10/01
- メディア: CD
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以前から予告しておりましたムーンライダーズ35周年記念企画、全アルバム及び関連作品のレビュー開始致します。カテゴリーも新たに作りました。随時更新していきますのでヨロシクです。まずは、フロントマン鈴木慶一氏のソロ活動から。先ごろニューアルバムが発売された鈴木慶一+高橋幸宏によるユニットTHE BEATNIKS(ザ・ビートニクス)について。
THE BEATNIKSは、1981年の結成以来、断続的にアルバムの発表やライブを行なってきた。これまでTHE BEATNIKS名義でリリースされたアルバムは、『EXITENTIALISM 出口主義』(1981年)、『EXITENTIALIST A GO GO』(1987年)、『M.R.I.』(2001年) 、そして新作『LAST TRAIN TO EXITOWN』(2011年)。他に『出口主義』のリミックス・アルバム『ANOTHER HIGH EXIT』(1994年)、山本耀司の96年春夏のパリ・コレクションの為に書かれたインスト作品『THE SHOW vol.4 YOHJI YAMAMOTO COLLECTION MUSIC』(1996年)がある。
ユニット名は、1950年代アメリカのアンダーグラウンド・ムーブメントであったビート・ジェネレーションから取られている。彼らは「ビート族(ビートニク)」と呼ばれて、ジャック・ケルアック、アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズらカルト的な人気を誇る詩人・作家を生み出し文学界を席巻した。ちなみに、今は亡きペヨトル工房のムック「銀星倶楽部」の「バロウズplusビートニク」特集号(1987年)には、慶一+幸宏両氏のインタビューも掲載されている。
THE BEATNIKS名義のファースト・アルバムが1981年リリースの『EXITENTIALISM 出口主義』。ピーター・バラカン氏が共作者としてクレジット(M-2、M-7、M-11)されているが、「出口主義」というのは幸宏・慶一・バラカン3氏による造語だ。当時発売された雑誌「宝島」(小さいサイズでサブカル雑誌だった頃)に2人のインタビューが載っていて、「出口主義(EXITENTIALISM)」とは「実存主義(EXISTENTIALISM)」のもじりだ、とモジャモジャパーマ頭の慶一氏が語っていた。M-2のタイトルにある通り、出口なしの閉塞感とそこからの脱却がアルバムの大きなテーマになっている。
収録曲は、
M-1. 詩人の血 Le Sang du Poete
M-2. 出口なし No Way Out
M-3. ダイヤモンドの箱舟 Ark Diamant
M-4. 時々 Now And Then…
M-5. ルーピィ Loopy
M-6. 女は男じゃない Une Femme N'est Pas Un Homme
M-7. 鏡 Mirrors
M-8. 蛇口 Le Robinet
M-9. ひとで L'Etoile de Mar
M-10. 来るべき世界 Inevitable
M-11. 洋の中の川 River In The Ocean
(アナログ盤ではM-1〜M-5がSIDE A、M-6〜M-10がSIDE B。M-11はCD化の際追加収録)
M-1「Le Sang du Poete(詩人の血)」が終わると、M-2「No Way Out(出口なし)」の暗いイントロが始まる。M-2のイントロを聴くと、一気に80年代初頭の感覚が甦るようだ。当時ムーンライダーズは『カメラ=万年筆』、YMOは『BGM』『テクノデリック』と、暗めなアルバムの製作時期と重なっており、本作も重く実験的で尖がった音作りがなされている。
全編を退廃ムードが支配したアルバムだが、それでいてポップ・ミュージックの楽しさは失われていない。幸宏・慶一両氏の人柄なのか、そこはかとなくユーモアが滲み出ているのが良い塩梅だ。アルバムを一聴すれば分かるが、そもそもビートニクスと名乗りつつ、全然アメリカンな感じがしない。1曲目からしてコクトー、幸宏氏はソロ・アルバムの流れでヨーロッパ趣味丸出しで、慶一氏の曲もマン・レイだったりして、ビートどころか思いっ切りフランス寄りなのがトボけてる。個人的なベストトラックはM-7「鏡 Mirrors」。間奏で軽やかに転調するところがお洒落で好きなんですよ。M-2、M-6も同様。本作の格好良さは、今聴き直しても古びていないと思う。
90年代に入って唐突にリリースされたリミックス・アルバム『ANOTHER HIGH EXIT』は、リミキサーとしてAPHEX TWIN、SOMETHING WONDERFUL、GRAHAM MASSEY(808ステイト)、BILL LASWELLらが参加。トランス・テクノに変貌した『出口主義』は、これはこれで面白い。オリジナル盤とリミックス盤、10数年の時を経て、同じ「テクノ」という括りでも様々な解釈があるのだなと。