Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『映像バタフライエフェクト』「ヒトラーVSチャップリン 終わりなき闘い」「映像プロパガンダ戦 嘘と嘘の激突」

 

 NHKのドキュメンタリー番組『映像バタフライエフェクト』(NHK)、以前放映された同番組の『ヴェルヴェットの奇跡 革命家とロックシンガー』がとても面白かったので、政治と映画を扱った2本もチェックしてみました。

 

 『ヒトラーVSチャップリン 終わりなき闘い』(6/6放映)。喜劇王チャップリンファシズムの代名詞ヒトラーは、誕生日が近い(わずか4日違い)だけでなく外見(小柄でチョビひげ)、そして何より大衆の心を掴むテクニックに長けているという共通点があった。2人は己のパフォーマンスを最大限に発揮するため映像を駆使したプロパガンダを展開、チャップリンは民主主義を、ヒトラーはナチズムを広めようとした。やがてチャップリンは映画で、ヒトラーは政治で熱狂を巻き起こす。ヒトラーの台頭を危惧したチャップリンは『独裁者』を製作し、ナチズムを批判した。

 『独裁者』は身代わりの話なので、チャップリン自身ヒトラーと自分の共通点に自覚的だったのだろうと思います。非常に興味深い番組だったけど、気が滅入る内容だった・・・。一番嫌だったのは、ブレイク前のヒトラーが大衆に受ける演説スタイルを確立するために発声法やゼスチャーの指導を受けている場面でした。ヒトラーは1日にして成らず。怪物になる前に誰かが気がついて止められなかったのか。・・・止められなかったんだよな。

 

 『映像プロパガンダ戦 嘘と嘘の激突』(9/5放映)。SNS時代の現在、フェイク映像の問題はよく話題に上ります。みんな簡単に騙されるほど単純じゃないだろうと思いきや、デジタル技術のおかげで本物と区別のつかない映像が作成できること、またSNSを通じて世界中に拡散するスピードが速いことから、フェイク映像によるプロパガンダは意外に効力を発揮しているようだ。映像による感情操作を政治利用しようという輩の企みは、「騙されやすい人」・・・というよりも、「自分の信じたいものしか信じない人」「疑問を持たない(持ちたくない)人」「長いものに巻かれたい人」たちの後押しによって、より効果を挙げているというか。番組では二次大戦中のアメリカと日本のプロパガンダ合戦など、興味深くも恐ろしい映像プロパガンダの歴史を紐解いていきます。

 観客の感情を操作する編集テクニック「モンタージュ」と言えば、『戦艦ポチョムキン』のエイゼンシュテイン監督。番組には、エイゼンシュテインモンタージュ理論を発見したきっかけは、日本の漢字について知ったことだという凄い話が出てきます。2つの文字(部首)を組み合わせて、別の意味を持つ文字になるという漢字の成り立ち。エイゼンシュテインはそこから、映像を組み合わせて感情を表現する革新的な手法(モンタージュ)を編み出したという。まさかと思うけど、当時のメモ(エイゼンシュテイン手書きの漢字が読める)まで出てくるので本当らしい。ってそれもまたフェイク映像じゃないの?とすべてに疑心暗鬼になるような怖さがありました。こちらも非常に興味深いけど、気分が滅入る番組でした。