Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』 (円城塔)

 

 円城塔ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』(2022年)読了。自身がシリーズ構成・脚本を担当したTVアニメーションのノベライズ。

 

 ゴジラ本多猪四郎によるオリジナル版(1954年)以来、『シン・ゴジラ』(2016年)に至る東宝のシリーズ、アニメ版、ハリウッド版、その他様々な作品に登場、作品毎に「ゴジラとは一体何か」について様々な解釈がなされてきました。円城塔版『ゴジラ S.P』では『シン・ゴジラ』で描かれた「進化し形態を変えるゴジラ」を踏襲しつつ、ゴジラ最大の特徴である「核が生み出した怪獣」という設定を無くしています。ゴジララドンアンギラス、クモンガ等、お馴染みの怪獣たちが次々登場しますが、従来の「核実験の影響で目覚めた」とか「宇宙人に操られた」といった設定ではなくて、既存の生物とは全く違った生態系を有したものたちとして描かれています。怪獣たちの生態系によって既存の生態系が浸食されるという地球規模のお話になっていて、怪獣たちの代謝に関連する紅い粉塵が街を覆うイメージで表現されています。SF作家らしいアプローチでスケールの大きな(法螺)話を展開しようという目論見でその意気やよし、大いに楽しみました。物語の終盤にはオリジナル版への言及もあり(オキシジェン・デストロイヤー!)、何よりジェットジャガーの大活躍が嬉しいところ。小説版で描かれるクライマックスはまるで神話のようなスケール感ではないですか。やってることはゴジラと巨大ロボットのどつき合いなんですが。

 

 これまで円城作品は、伊藤計劃との合作(伊藤の遺稿を引き継いだ)『屍者の帝国』しか読んでいません。なので他の作品と比較はできませんが、個人的に『屍者の帝国』で最も感動した部分は「誰がこの物語を語っているのか」ということでした。この点については、本作の仕掛けも非常に面白いと思いました。各章毎、AI(ユング、ペロ2)と怪獣の視点から語るという荒業で、この辺りの自由度も実にSF小説らしいと思いましたね。アニメ版見直してみたいなあ。再放送しないかな。