Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

ラス・メイヤーを振り返る

 

 巨乳の美女たちが躍動する独特の映像世界が一部に熱狂的なファンを獲得している映画監督ラス・メイヤー(1922年-2004年)。日本においてラス・メイヤー作品は長らく好事家だけのものだったと思われます。しかし90年代後半に一部作品が劇場でリバイバル公開され、2000年代に入ると代表作『ワイルド・パーティ』日本版DVD発売に加えて、3つのDVDBOXが発売されてその作品のほとんどを網羅できるようになりました。個人的にはメイヤーのように巨乳好きではありませんが、見始めたら特異な映像世界にすっかりハマってしまいました。

 

 

 以下の文章は、以前同人誌をやっていた時に書き散らしていた文章をまとめたものです。何故今ラス・メイヤーについて振り返るのかと問われると困るのですが、Twitterを始めて、意外とラス・メイヤーに興味持ってる人が多そうだと感じたので。

 

 

 従軍カメラマンとして第2次世界大戦に参加した後、メイヤーはプレイボーイ誌などでグラビアカメラマンとして活躍。当時の主なモデルは女房イヴ・メイヤーだったそうです。その後、映画制作に乗り出す。映画デビュー作は、世界の風俗店をリポートしたドキュメンタリー『ピープショウ』(1952年)。これは残念ながら未見ですが、当時しっかり日本公開もされているようです。

 

 

『インモラル・ミスター・ティーズ』 The Immoral Mr. Teas, his first commercial success, defining a new genre(1959年)      

 メイヤーの劇場第2作目『インモラル・Mr.ティーズ』(1959年)。出演ビル・ティーズ、アン・ピーターズ、マリリン・ウェズリーほか。4日間の撮影期間、わずか2万4千ドルの制作費で、150万ドルを超える興行収入を上げる大ヒットになったという。この映画の後「ヌーディー・キューティー」(ヌード映画)の大ブームが巻き起こったというから、メイヤーは正にエロ映画の始祖なのだ。

 内容はこんな感じ。のん気な中年男ティーズ氏は町で出会った女性のヌードを想像する。食堂で、オフィスで、歯医者で・・・。サイレントで往年の喜劇映画のスタイルを取った62分の中篇。今見るとのどかなもので、エロ度も低く、インモラルってほどの過激さはどこにもない。他愛もないと言ってしまえばそれまでなんだが、ユーモラスな描写の数々にはメイヤーの大らかな喜劇志向が伺える。ちなみにコミカルなキャラクターを演じた主演のビル・ティーズはメイヤーの戦友だという。

 

 

『イヴ&ハンディマン』 Eve and the Handyman(1961年)       

 続く『イヴ&ハンディマン』(1961年)。当時の妻イヴ・メイヤーを主演に迎えた劇場第3作。便利屋とイヴちゃん、なんて書くとロマンポルノみたいだな。出演はイヴ・メイヤー、アンソニー・ジェームズ・ライアン、フランク・ボルジャーほか。便利屋の男が掃除の仕事で町を動き回るが、行く先々で巨乳美女に遭遇する。そしてその様子を監視するトレンチコートの謎の女・・・。これまたサイレントで撮られた65分の中篇で、『インモラル・Mr.ティーズ』同様に往年のサイレント喜劇のスタイルで作られている。前作より(ちょっとだけ)工夫が凝らされ、ポップな編集にはすでに後年のタッチが芽生えている。

 劇中に登場する巨乳美女は全てイヴ・メイヤーが演じている。衣装をとっかえひっかえ登場するイヴはいかにもメイヤー好みの大柄な金髪グラマー。「どうだ、わしの女房、いい女だろう?」ってな感じで自慢げなメイヤーの様子が画面からも伝わってくる。イヴは離婚後もプロデューサーとして映画作りに参加し、メイヤーとは良好な関係を続けていたようだ。

 

 

『ワイルドギャルズ・オブ・ザ・ネイキッドウエスト』 Wild Gals of the Naked West(1962年)            

 『ワイルドギャルズ・イン・ザ・ネイキッドウエスト』(1962年)。出演フランク・ボルジャー、ジュリー・ウィリアムズ、ジャック・モーラン、アンソニー・ジェームズ・ライアンほか。これは驚いた。第4作目『ワイルドギャルズ・イン・ザ・ネイキッドウエスト』は何と西部劇。61分の中篇で、基本的には前2作のスタイルを継承した「ヌーディー・キューティー」の筈なのだが、過激さは比べ物にならないくらいヒートアップしている。エロ度が、ではなく、映像編集の過激さである。

 冒頭で老人が現れ、かつての西部で起きた出来事を語り始める。古き良き西部・・・。ところが、展開する映像はとても「古き良き西部」には見えない奇怪な世界である。書き割りのセット、徘徊するトップレス美女、画面に氾濫する原色、と呆れた脱構築ぶりでゴダールの『東風』も真っ青。何しろ騎兵隊の旗、海にぶちまけられた赤いペンキ、砂浜に突き刺さったサーベル、このモンタージュでインディアンと騎兵隊の戦いを表現してしまうのだ。撃ち合い、酒場、売春宿、縛り首、といった西部劇のクリシェで遊びまくった実験映画といった感じ。

 

 

 資料によるとこの時代には『This Is My Body』(1959年)、『Naked Camera』(1960年)、『Erotica』(1961年)、『Europe in the Raw』『Heavenly Bodies!』『Skyscrapers and Brassieres』(1963年)といった作品があるようだが、どれも未見。  『Fanny Hill, an adaptation of the 1749 novel Fanny Hill, Memoirs of a Woman of Pleasure』(1964年)というのもあって、タイトルから推測するに『ファニー・ヒル』の映像化なのか?              

 

 

『肉体の罠(ローナ)』 Lorna(1964年) 

 『肉体の罠』(1964年)。ソフト化にあたって『ローナ』と改題。出演ローナ・メイトランド、ジェームズ・ルッカー、ハル・ホッパー、ドク・スコートほか。本作は、一転してモノクロのシリアスドラマ。「ヌーディー・キューティー」を離れたメイヤー初の本格ドラマとなっている。うだるような暑さの南部の田舎町が舞台。実直な夫を愛していながら欲求不満を抱えた人妻ローナ(ローナ・メイトランド)。ある日、脱獄囚に乱暴されエクスタシーを覚えたローナは彼と駆け落ちしようとする。それを阻止しようとした夫と脱獄囚が争って・・・。前作までと同一人物が監督したとは思えないカッチリとした仕上がりで驚いた。お得意のナレーションに代わって、宣教師が画面に登場、道徳的な語りで締めくくる。一般公開を視野に入れた対策かな。本作のヒロインがスケールアップしてセックス・マシーンと化したのが後年の『女豹ビクセン』か。

 

 

『欲情(マッド・ハニー)』 Mudhoney(1965年)       

 『欲情』(1965年)。ソフト化にあたって『マッド・ハニー』と改題。出演ハル・ホッパー、アントワネット・クリスティアニ、ジョン・ファーロング。レナ・ホートン、ローナ・メイトランドほか。『ローナ』に続いて、南部を舞台にしたシリアスなドラマ。メイヤー曰く「我がジョン・スタインベック時代」の作品。南部の田舎町にやってきた流れ者。旧家に使用人の職を得るが、田舎町の愛欲渦巻く人間関係に絡め取られ、暴力の世界へと押し流されていく・・・。影を背負った流れ者、暴力的な夫に怯える人妻、売春宿のおかみ、狂える牧師、等々登場人物たちの顔つきが素晴らしい。閉鎖的な田舎町の描写、緊迫感のある展開も見事で、これは『ローナ』よりもさらに徹底して見ごたえのあるドラマではないか。メイヤーはこの演出力を一体どこで身につけたのだろう。特に映画マニアでもなく、映画監督としての下積みもないままに、『マッド・ハニー』みたいな映画を作ることが可能なのだろうか?

 

 

 

 メイヤーは自主映画の常として製作、脚本、監督、撮影、編集など全てに携わっている。記録映画から始まり、サイレント、実験映画、そして劇映画と映画史を辿るように自らのフィルモグラフィーを重ねてきたメイヤーは、自力でここまで進化を遂げたのだ。しかし映画マニアの青年などではなくて、いい年したオッサンが。年代を考えると驚くべきことではないか。そこにメイヤーの非凡な才能があり、しかもしっかり収益も上げてるのだから凄い。

 

 

『モーター・サイコ』 Motorpsycho(1965年)            

 『モーター・サイコ』(1965年)。出演ハジ、スティーヴ・マスターズ、アーシャルス・アヴァジアン、リチャード・S・ブルマーほか。三人の荒くれバイカーに妻をレイプされた獣医は、同じく夫を殺されたダンサーとともに復讐を狙うが・・・。どうやらブームに乗ろうとして作ったと思しきメイヤー流バイカー映画。ところが若者側に立っておらず、バイカーたちを単なる荒くれ者としてしか描いてないあたりにメイヤーの保守性が伺える。っていうかもうとっくにオヤジだからしょうがないか。ロジャー・コーマンのバイカー映画のようなドキュメンタリー的アプローチは皆無である。結果として、荒野のロケーションも相まって「現代版西部劇」というような映画になってしまった。バイカーのリーダーがいわゆる皮ジャンのヘルスエンジェルススタイルではなく、ポンチョみたいなのを羽織っているので余計にそんな印象が強いのかもしれない。後の『ファスタープッシーキャット』では荒くれ三人組の側を演じるハジが、ここでは幸薄い人妻を演じてしっとりとした魅力をみせるのが新鮮だった。

 

 

『ファスター・プシィキャット!キル!キル!』 Faster, Pussycat! Kill! Kill!(1965年)             

 いよいよラス・メイヤーを語る際に外せないカルト作『ファスター・プッシー・キャット・キル!キル!キル!』(1965年)が登場。初見は  渋谷パルコPart3でのリバイバルで、これがメイヤー初体験でした。出演はトゥラ・サターナ、ハジ、ロリ・ウィリアムズ、レイ・バーロウ、スー・バーナード、デニス・ブッシュほか。

 エロとバイオレンスはラス・メイヤーの両輪であるが、本作ではエロは控えめでバイオレンス路線を徹底。後年の『ヴィクセン』シリーズのような誇張したバイオレンスではなく、もっと乾いている。内面を感じさせない登場人物や陰惨な物語は極めてB級犯罪映画的。つんのめるようなテンポのスピーディーな展開は実に面白い。まずはカルトの名に恥じぬ必見作と言えよう。

 メイヤー作品を続けて見ると、本作のトゥラはメイヤーにしては例外的なキャラクターだった事が判る。大らかにセックスを謳歌するメイヤー的ヒロインとは明らかに異質なのである。黒ずくめのトゥラは巨乳なのにセックスを感じさせず、徹底して悪の存在なのが面白い。

 

 

『モンド・トップレス』 Mondo Topless(1966年)        

 『モンド・トップレス』(1966年)。出演バベット・バルドー、パット・バリンジャー、シン・レニー、ダーレン・グレイほか。モンド映画といえば、ヤコッペティの『世界残酷物語』。世界の変わった風習をドキュメンタリー風に描きブームを巻き起こしたが、一方メイヤーは『モンド・トップレス』ときたもんだ。これが巨乳好きのためのプロモーション・ビデオみたいな珍作。世界各地で行われるヌード・ショーの紹介と、自然風景の中でゴーゴーダンスを踊る巨乳美女を、お得意の素早い編集テクニックでモンタージュしていく。走る列車を背景に乱舞するトップレス美女、なんてグラフィカルな映像の面白さはメイヤーの独壇場。ストーリーがない分だけ、より純粋なメイヤー世界を堪能できるだろう。もちろん、そこにあるのはただひたすらに巨乳のみだ。

 

 

『カモンロー・キャビン』 Common Law Cabin(1967年)            

 『カモンロー・キャビン』(1967年)。出演はアレーナ・カプリ、バベット・バルドー、ジャック・モランほか。川辺で観光客相手の店を経営する一家。浮気症の妻を持つ医者等、さなざまな客がやって来る。そこに凶悪な逃亡犯がやって来て・・・。メイヤー映画の女優は巨乳の大女タイプだろうが、本作に登場する娘役のバベット・バルドーちゃん(脱ぎなし。水着のみ)は例外的な可愛い子ちゃんタイプ。もっとも、医者の妻、内縁のフランス人妻、そして娘と、三様のタイプを登場させるあたり、さすがメイヤーは抜け目ない。メイヤー自身の好みは、奔放な巨乳タイプの内縁のフランス人妻あたりだろうか。映画としてはいまいち弾まず。『女豹ヴィクセン』をスケールアップしたような雰囲気ではあるが、話が拡散しちゃって切れ味が悪い印象を受けた。自然がバックとは言え、湿地帯じゃダメなのかもなあ。荒野じゃないと。

 

 

『草むらの快楽(グッドモーニング グッドバイ)』 Good Morning and... Goodbye!(1967年)      

 『草むらの快楽』(1967年)。ソフト化にあたって『グッドモーニング グッドバイ』と改題。出演はアレーナ・カプリ、スチュアート・ランカスター、パット・ライトほか。主人公は不能でうだつの上がらない中年男で、妻や娘にも馬鹿にされている。ある日森で出会ったセックスの妖精(!)から貰った薬で不能が直り自信回復。妻の浮気相手や娘に詰め寄る肉体労働者を叩きのめす・・・。って書いてて馬鹿らしくなるようなお話だが、メイヤーなりのファンタジーなのだろう。セックス良ければ全て良し、とはメイヤーらしい安直な発想ではある。晩年のインタビューでバイアグラの効能を嬉々として語っていたメイヤーの事だから、案外本気で信じていたのかもしれない。

 

 

『真夜中の野獣(ファインダー・キーパーズ・ラヴァーズ・ウィーパーズ)』 Finders Keepers, Lovers Weepers!(1968年)     

 『真夜中の野獣』(1968年)。ソフト化にあたって『ファインダー・キーパーズ・ラヴァーズ・ウィーパーズ』と改題。出演アン・チャップマン、ポール・ロックウッド、ゴードン・ウェスコートほか。タイトルバックが素晴らしい。トップレスバーが舞台なので、酒のボトルに貼られたラベルがクレジットになっているというお洒落さ。酒のボトル、差し出されるグラス、踊り狂うストリッパー、好色な視線を注ぐ客たちが軽快にモンタージュされる。プールでのSEXシーンがまたメイヤーらしい。水中で身体をぶつけ合う男女の映像に、カーレースのクラッシュ映像が唐突にモンタージュされるというダイナミックかつ阿呆な演出には爆笑。

 お話はバーの経営者と妻、愛人の三角関係。そこに酒場のあがりを狙う強盗が押し入り・・・というサスペンス仕立て。全体的に小ぢんまりとまとまっていて、ラス・メイヤーにしては随分大人しい映画であった。面白い事は面白かったが、いつもの奔放な魅力には乏しい。やはり都会が舞台では駄目で、メイヤーの映画には自然風景が欠かせないのだろうと思う。

 

 

 

『女豹ビクセン(ヴィクセン)』 Vixen!(1968年)       

 『女豹ビクセン』(1968年)。ソフト化にあたって『ヴィクセン』と改題。初見はBOX東中野リバイバル公開。出演エリカ・ギャヴィン、ガース・ピルスバリー、ハリソン・ペイジ、マイケル・オドネル、ヴィンセント・ウォレスほか。森林のロッジを経営する夫婦。火照る肉体を持て余した奥さんビクセンは夫の目を盗んで浮気しまくるが・・・。とまあお話だけを見ると別に特徴のある映画ではない。しかし、一目映像を見ればメイヤーの際立った個性に圧倒される。グラフィカルな映像(自然風景とヌードの対比、ベッドシーンをベッドの真下から撮るという有り得ないアングル)、快テンポの編集、女性像(SEXは大好きだが、決して男に縛られない強い女性)、性癖(体位は常に女性上位。仰角に仰ぎ見るアングルでおっぱいを強調)、すべてにメイヤーの刻印が押されている。それもその筈、メイヤーが製作、脚本、監督、撮影、編集、を担当する徹底した「個人映画」なのだ。

 

 

『エキサイトSEX(チェリー、ハリー&ラクエル)』 Cherry, Harry & Raquel!(1969年)   

 『エキサイトSEX』(1969年)。ソフト化にあたって『チェリー、ハリー&ラクエル』と改題。出演はリンダ・アシュトン、チャールズ・ネイピア、ウッシー・ディガートほか。町の有力者とツルむ悪徳警官ハリー(出ました、チャールズ・ネピア!)。麻薬の密売人を始末し損ねた事から、逆に命を狙われるハメに・・・。DVDの解説を読むと「メイヤーはドン・シーゲルの『マンハッタン無宿』からインスピレーションを受けて本作を作った」などととんでもない事が書かれていて笑った。確かに荒野のカーチェイスや銃撃戦など本格的なアクションは単なるエロ映画を越えている。『ファスター・プッシーキャット・キル!キル!』『モーターサイコ』『スーパー・ヴィクセン』等で見せたバイオレンス描写の切れ味は本作でもフルに発揮されている。粗筋も「悪徳警官がドつぼにハマる」という犯罪小説の基本を押さえた展開で面白い。二人の愛人の間を往復しながら犯罪にのめりこんで行く悪徳警官を常連チャールズ・ネピアが熱演している。しかし、そこはメイヤーの事だから、ドイツの巨乳美女ウッシー・ディガートが様々な場面で登場して、映画を犯罪アクションから遠い彼方へと連れ去ってしまうのだが・・・。看護婦プレイ等、エロ描写はいつにも増してねちっこいような。

 チャールズ・ネピアアメリカ映画名脇役の一人。アゴのしゃくれたおっさんで、田舎の金持ちや軍人の役が多い。ジョナサン・デミ作品にも毎回登場するので、ご存じの方も多いと思います。

 

 

 『チェリー、ハリー&ラクウエル』の予告ではメイヤー自身の声で「田舎のフェリーニラス・メイヤーがお送りする娯楽作!」とかいうナレーションが入って爆笑。「田舎のフェリーニ」だもんなあ。個人的には(映像作家としての)メイヤー最大の特徴は鮮やかな編集の技であると思う。時にカメラマンも兼ねるメイヤーのグラフィカルなセンスは素晴らしい。解説に曰く「ゴダールも裸足で逃げ出す」、めくるめく奔放な編集は実に面白い。お得意のフラッシュ・バック、フラッシュ・フォワードを駆使した映像はポップと言うよりもほとんどアバンギャルドと呼ぶのが相応しいくらいである。感覚としてはメイヤーが自称する「田舎のフェリーニ」(笑)というよりは、むしろアントニオーニの『砂丘』やニコラス・ローグの諸作に近いと思った。つまりはトリップという事だ。公開当時、そういった同時代的な評価はされてたんだろうか。本作など評価されて当然と思える鮮やかさなのだが、何せ邦題『エキサイトSEX』だもんなあ。やっぱ無理だよなあ・・・。

 

 

『ワイルド・パーティー』 Beyond the Valley of the Dolls(1970年)           

 『ワイルドパーティ』(1970年)。出演ドリー・リード、シンシア・マイヤーズ、マーシア・マクブルーム、デヴィッド・ガリアン、ジョン・ラザーほか。『女豹ビクセン』等低予算で大ヒットの実績を買われたメイヤーが、大メジャー20世紀フォックスに招かれて撮った傑作。女の子三人組のロック・グループが巻き込まれるセックス、ドラッグ、ロックンロール&バイオレンスの饗宴。予想以上にハイテンションで馬鹿らしい展開、冴えた編集テクニック、サイケな音楽が楽しい。

 一応はガールズ・バンドのサクセスストーリーなのだが、画面の方はスケールアップしたメイヤー・ワールドで、ハリウッドバビロン、乱舞する巨乳、怒涛のように襲い来る不幸の嵐、スプラッターなクライマックス、とってつけたようなハッピーエンドと心にもない前向きなメッセージには爆笑。メイヤーはインタビューを読むと単なる成金のスケベじじいだが、確実にある種の映画的才能があったことは本作を見ると十分理解出来る。とりわけ編集のセンスは信じ難いほどホップだ。常連のチャールズ・ネピアもチョイ役で顔を見せる。

 

 

 

『恍惚の7分間・ポルノ白書』 The Seven Minutes(1971年)

 未見。昔船橋にあった輸入屋「アニマル・ファーム」でVHSを買ったけど見る前に引っ越しのどさくさで紛失してしまった。悔しい。OPだけ見た記憶があるが、クレジットが上から下に流れるという面白い演出だったはず。             

             

 

『ブラック・スネイク』 Black Snake(1972年)            

 『ブラック・スネイク』(1972年)。出演はアヌーシュカ・ヘンペル、デヴィッド・ウォーベック、パーシー・ハーバートほか。『モーターサイコ』がメイヤー流バイカー映画なら、本作はメイヤー流ブラックムーヴィー(なのか?)。よりによって奴隷解放の映画とは。本作はメイヤー作品としてはそれほどヒットしなかったと言う。マーケットリサーチの勘違いと、雰囲気がシリアスな事が原因かと思われるが、メイヤー自身はコケた原因を「主演女優が巨乳じゃなかったから」と語ったという。全くこのオッサンは。メイヤー自身、本作に出て来る鞭打ち等のSMテイストには興味なさそうだし。

 本作は後年の『マンディンゴ』なんかに似てはいるが、メイヤーの事だから社会派の映画を作ろうなどと言う意識は微塵も無かっただろう。とは言え、映画は普通に面白い。エロは控えめな分だけお話やキャラクターがしっかりしており、メイヤーのオーソドックスな演出力に改めて驚かされる。さらにクライマックスの奴隷反乱で噴出する暴力描写の鮮やかさはメイヤーの独壇場。本編の映像が巧みに編集されたOPのインパクトもまた素晴らしい。

 

 

『淫獣アニマル(スーパー・ヴィクセン)』 Supervixens(1975年) 

 『淫獣アニマル』(1975年)。ソフト化にあたって『スーパー・ヴィクセン』と改題。初見は渋谷パルコPart3でのリバイバル公開。出演はシャリ・ユーバンク、チャールズ・ネピア、ウッシー・ディガート、チャールズ・ピッツ、ヘンリー・ローランドほか。

 悪役の常連チャールズ・ネピアが大活躍。基本的には大らかなコメディタッチなんだが、ネピア扮する警官の暴力描写だけは激烈。浴槽で女を感電死させる場面など凄まじい。お話は一種のロードムーヴィー。女運の悪い(?)主人公は行く先々でトラブルに巻き込まれる。主人公が出会う女性キャラが「スーパー・エンジェル」「スーパー・ソウル」「スーパー・チェリー」「スーパー・ヴィクセン」等々皆「スーパーなんとか」と呼ばれるのが笑える。自然風景とヌードの対比はメイヤーの好物。様々な屋外ヌード、野外セックスが登場。とりわけ、荒野・ヌード・ダイナマイトが織り成す本作のクライマックスはメイヤーでしかありえない不可思議な映像だ。

 

 

『UP! メガ・ヴィクセン』 Up!(1976年)      

 『UP! メガ・ヴィクセン』(1976年)。これはメイヤーの異能ぶりが堪能出来る面白い作品。アメリカの田舎町の狂った人物スケッチを徹底し、ポルノと言うよりほとんどナンセンスコメディの域に達している。そこに『淫獣アニマル』を越える暴力描写をぶち込んだ。クライマックスの酒場での惨劇には唖然とさせられる。

 ヒロインが巨乳のセックス・マシーンというのは他の作品と同じだが、本作のヒロインは意外に知性的。実は●●だった・・・というオチが付くラスト。カメラに向かってウインクするレイヴン・デラクロアはなかなかカッコ良い。今回キトゥン・ナティヴィダッドは狂言回し(?)として登場。全裸で脈絡無く木の上とか岩の上とかに現れては映画に注釈を加えるのがおかしい。

 

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『Who Killed Bambi?』(1978年、未完成)

 言わずと知れた幻の企画。主演セックス・ピストルズ。      

             

 

『ウルトラ・ビクセン/大巨乳たち(ウルトラ・ヴィクセン)』 Beneath the Valley of the Ultra-Vixens(1979年)

 『ウルトラ・ビクセン/大巨乳たち』(1979年)。ソフト化にあたって『ウルトラ・ヴィクセン』と改題。公開時のいかにも洋ピンらしい意味不明の邦題が笑える。「大巨乳たち」って何のことだよ、と思うが、実際タイトルに偽りなしだ。豊満な女性が次々と登場し痴態を繰り広げる。中でも、キトゥン・ナティヴィダッドの陽気なセックス・マシーンぶりは強烈(私生活では長年に渡ってメイヤーの愛人だったという)。

 映画自体はポルノ路線から微妙にズレており、後年ジョン・ウォーターズデヴィッド・リンチに受け継がれるアメリカの田舎町の狂った人物スケッチに比重が置かれている。コメディタッチと呼ぶにはちょっと過剰すぎる感覚である。終いにはメイヤー本人が登場し、何かもっともらしいお説教で映画を無理やりまとめてしまうので笑った。出演はアン・マリー、ケン・カー、キトゥン・ナティヴィダッドほか。

 

 

パンドラ・ピークス』 Pandora Peaks(2001年)       

 ラス・メイヤーの遺作『パンドラ・ピークス』(2001年)。戦友と思い出の地を訪問するラスじいさんが語る戦争、釣り、映画、そして女。超人気のストリッパー、パンドラ・ピークスロザンナ・アークエットをさらに巨乳にしたような美女)が語る人生、仕事。謎のドイツ女が語るセックスの歓び。これらドキュメンタリー風の映像と何の脈絡もない数々の巨乳映像が、ラスじいさんお得意のめくるめく編集で矢継ぎ早に繰り出される。戦争、釣り、映画、お笑い、そして巨乳、それらがラス・メイヤーの宇宙でぐるぐる回っている。妙な効果音入りで。ラス・メイヤー、享年82歳。戦争と、映画と、おっぱいと。きっと凄~く幸せな人生だったろうね。        

 

             

 駆け足でラス・メイヤー作品を振り返ってきました。映画を見続ける事にはいつでも何らかの痛みが伴うものだ。しかし、ラス・メイヤーという宇宙にあるのはただひたすらに眩いばかりの歓びだけだった。これっぽっちも迷いのない映像の前にはひれ伏すしかない。