デヴィッド・クローネンバーグ監督『裸のランチ』(1991年)が「12ヶ月のシネマリレー」企画の1本として映画館にかかったので、仕事明けに見に行く。新宿武蔵野館にて。久々の再見。
原作ウィリアム・S・バロウズ。害虫駆除員のウィリアム・リー(ピーター・ウェラー)が作家になるまでの葛藤を描く。妻殺しをする事でただのジャンキ-から抜け出して作家になれたんだろ?という、作者バロウズの半生に対するクローネンバーグの解釈を盛り込んでいる。
前半の犯罪映画風のニューヨーク、後半のインターゾーンの異国趣味。ジャンキーの視野を表現したのか、映像世界は妙に奥行きを欠いている。尻で喋り悶えて変形する蟲タイプライター、頭の突起から麻薬を出すマグワンプ、美青年を襲う巨大ムカデなど、クリーチャーはリアルさよりグロテスクな作り物臭さが強調されている。蟲タイプライターは改めて見てもかなりのインパクト。口(尻)に粉末を与えられて悶える場面は笑った。
クローネンバーグ世界が似合うピーター・ウェラー。ジュディ・デイヴィスの退廃美。ノリノリのロイ・シャイダー。イアン・ホルム、ジュリアン・サンズ、ら脇役も充実。オーネット・コールマンのサックスをフィーチャーした音楽が素晴らしい。
『裸のランチ』でクローネンバーグ気分が高まったので、帰宅して深夜にアマプラで『ザ・ブルード/怒りのメタファー』(1979年)を再見。寒々しいカナダの風景に、ドロドロした憎悪が渦巻くホラー映画。怖さ(厭さ)という意味ではクローネンバーグ作品の中でもかなり上位に位置する。個人的には『戦慄の絆』と本作がツートップ。
オリヴァー・リードがまるで何かのパフォーマンスのようにステージでセラピーを施している冒頭の場面からしてもう厭な感じ。母の怒りの具現化であるブルードの犯行は徹底して撲殺という禍々しさ。雪道を娘と2人のブルードが歩いているショットの恐ろしさ。リードがたくさんのブルードに襲われるクライマックスの陰惨な雰囲気。ラストに至ってはもう・・・。
クローネンバーグはいつもお話が物凄くシンプルで、描写もびっくりするくらい直裁的(身体がメディアと一体化する=腹にビデオテープを挿入)。本作もまた同様。間もなく公開される新作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』が楽しみだ。