Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『或る夜の出来事』(フランク・キャプラ)

 

 淀川さんの著作を読んで、何かクラシック映画が見たくなったので、フランク・キャプラ監督『或る夜の出来事』(1934年)を鑑賞。映画史に輝くロマンティック・コメディの名作。

 

 父親に結婚を反対されて家出した大富豪の娘(クローデット・コルベール)と、NY行きのバスで出会った新聞記者(クラーク・ゲイブル)の珍道中。それぞれの思惑で初めは仲が悪かった二人が、苦楽を共にするうち次第に魅かれ合っていくという黄金パターンだ。長いこと食わず嫌いをしてたけど、見たら確かに面白かったですこれは。

 

 主演クラーク・ゲイブル。『風と共に去りぬ』のイメージが強すぎて、「堂々とし過ぎたオヤジ」という印象だったけど、本作ではまだチンピラっぽい軽さがある。生のニンジンを齧りながらヒッチハイク指南する場面とか実に可笑しい。対するクローデット・コルベールも生き生きと弾むような名演。可愛かったなー。冒頭、ヨットに軟禁されていたところいきなり海に飛び込んで逃げる場面からもう絶好調だ。二人の掛け合いの面白さで映画が転がってゆく。最近の新作でこういうタイプの映画ってあんまり見当たらないような気がする。有名な「ジェリコの壁」も楽しい見せ場だった。ついに壁が崩れるラストは、洒落っ気より生々しさを感じてギョッとしてしまったが。

 

 フランク・キャプラ作品はこれまで『スミス都へ行く』『素晴らしき哉、人生!』『失はれた地平線』の3本しか見ていなかった。本作を見ると、キャプラ演出の快いテンポとユーモア、キャラ立ちの見事さは今見ても古びてない。新聞社の上司、富豪の父親の二人の大人が、単なる憎まれ役じゃなくて主人公たちをきちんとフォローする役回りなのも良かった。うーん、やはり食わず嫌いは良くないね。