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『セリ・ノワール』 SERIE NOIRE
監督/アラン・コルノー
原作/ジム・トンプスン「死ぬほどいい女」
脚本/アラン・コルノー、ジョルジュ・ペレ
撮影/ピエール=ウィリアム・グレン
音楽/ジェラール・レノアマン
出演/パトリック・ドヴェール、マリー・トランティニャン、アンドレアス・カツーラス
(1979年・111分・フランス)
ジム・トンプスンの『死ぬほどいい女』を映画化したフランス映画『セリ・ノワール』。日本劇場未公開のヴィデオ・スルー。監督はイブ・モンタン主演『真夜中の刑事』のアラン・コルノー。主演は『バルスーズ』でドパルデューの相方だったパトリック・ドヴェールと、名優ジャン=リュイ・トランティニャンの娘マリー・トランティニャン。
訪問販売員のフランク(パトリック・ドベール)は、営業で老婆と16歳の少女モナ(マリー・トランティニャン)が住む家を訪ねる。部屋に入ると、モナは突然裸身となってフランクに迫った。老婆は訪問者にモナの身体を与え、金銭をせびって生計を立てているのだった。売上金をくすねていたことがばれて会社をクビになり、妻にも愛想を尽かされたフランクは、老婆がためこんでいるという金を強奪しようと思いつくが・・・。
冒頭、空き地に車を停めた主人公が独り芝居を繰り広げている。独り言を呟いたり、踊ったり、仕舞いには格闘の真似事をしたり。パトリック・ドベールの卑屈なネズミのような顔つき。空き地の冷え冷えとした光景。どんよりと曇った空。この冒頭の場面だけで、主人公ののっぴきならない状況が伝わってくるようだ。
お話は、情け無い中年男が悪女の誘惑に乗って犯罪行為に手を染めて破滅してゆく・・・というフィルム・ノワールの典型的なパターン。映画は主人公フランクにぴったりと寄り添っている。パトリック・ドヴェールの名演もあり、このどうしようもない小悪党の戸惑いや焦り、悲しみといった生々しい感情が手に取るように伝わってくる。いわゆる「悪女」に当たるのが、ほとんど言葉を発せず突発的な行動を繰り返す少女というのも意外な面白さだ。
トンプスンの小説は、ほとんどが破滅に向かって一直線に突き進む狂人の独白みたいなものだ。ところが、その映像化作品では、主人公の狂気より純粋さが強調されているような印象を受ける。『アフター・ダーク』しかり『グリフターズ』しかり『ファイヤーワークス』しかり、本作もまたしかり。ペキンパーの『ゲッタウェイ』も、主人公があっち側へ行く前に終わっていたっけ(原作には国境を越えた後に驚きの展開が待っているのだ)。主人公の抱えた狂気へのアプローチが見えたのはマイケル・ウィンターボトムの『キラー・インサイド・ミー』くらいかもしれない。本作も、原作(「死ぬほどいい女」)は映画よりもっと刺々しい雰囲気で、終盤にはトンプスン節が炸裂している。あの結末をどうやって映像化しているのか興味津々であったが、映画版ではそこに至る前に終りを迎える。やっぱり映像化は無理かとガッカリしつつ、映画版の結末もこれはこれで余韻があっていいなあと思った。何ひとつ解決していないのに、まるでハッピーエンドみたいに見えるのが切ない。
- 作者: ジムトンプスン,Jim Thompson,三川基好
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