昨年、今年と特集上映が組まれ話題になった映画監督シャンタル・アケルマン。英映画協会の「史上最高の映画」で『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』が1位に選出され注目を集めた。(ちなみに2位は『めまい』、3位は『市民ケーン』とお馴染みのタイトル)気にしながらタイミングが合わずなかなかチェックできていなかったが、早稲田松竹で特集が始まったのでようやく劇場鑑賞することが出来た。ありがたい。
初めに見たのは『一晩中』(1982年)。ある暑い一夜を過ごす人たちのスケッチ。特にストーリーはなく、暗がりで蠢く人たちを淡々とスケッチした実験的な作品。カーラジオから、ジュークボックスから流れるシャンソン。抱き合う様々なカップル。恋人。夫婦。不倫。お互い名も知らぬカップル。もう終わりを意識したカップル。バーでダンス。身長差。ひとり残業し眠り込む男。夜中に何度も目を覚ましてしまう口髭の男。突然の雷雨が轟く。
時折、落ち着きなく部屋を行ったり来たりする女性、男女が席を立つと同時に倒れる二つのビールグラス、アパートの入り口で朝までウロウロしてる男など、サイレント喜劇みたいな場面があって面白かった。エンディングに流れる曲が妙に怖い。
続いては、『ゴールデン・エイティーズ』(1986年)。先に『一晩中』を見たので、実験的作風の人なのかなと思ったら、次の『ゴールデン・エイティーズ』は華やかな色彩のミュージカル・コメディだった。メインストーリーはブティックと美容院の従業員やお客たちが繰り広げる恋愛模様。身も蓋もない結末には苦笑いだった。
ミュージカルと言えばソング&ダンス。本作はダンスが無いので、ダンサーの華麗な足さばきに代わり、OPでブティック街を行き交う人々のカラフルな足元、試着室のカーテンの下に見える男女の足元を面白く描いて見せる。
本作はほぼ全編地下のブティック街のみで展開し、最後の最後にカメラは外へ出る。パリの通りを行き交う人々、車、そして青空。このヌーヴェル・ヴァーグ的な解放感。
劇中、映画館の前にはジョセフ・H・ルイス『拳銃魔』のポスターが貼られている。『拳銃魔』は1949年の作品なので、本作とは時代が違う。拳銃狂いの女性に気弱な男性が引き回されるお話で、アケルマンの趣味なのかな。
今回見た2本は全然違うタッチの作品だった。解説を読むと他の作品もまたそれぞれ違ったテイストのようだ。ぜひチェックしてみたい。ちなみにこの日は昼間に新作邦画を2本見たのだが、それとあまりに違い過ぎて笑いそうになってしまった。あれも映画ならこれもまた映画。