Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『フロント・ページ』『悲愁』(ビリー・ワイルダー)

 

 ビリー・ワイルダー監督の後期作品『フロント・ページ』『悲愁』鑑賞。2本とも今回が初見。

 

 『フロント・ページ』(1974年)はワイルダー作品常連のジャック・レモンウォルター・マッソー主演のコメディ。死刑囚が脱走し、スクープをものにしようとする新聞記者たちがドタバタ騒ぎを繰り広げる。軽快な音楽に乗せて、新聞が刷り上がるまでを見せるタイトルバックから絶好調。これハワード・ホークスの『ヒズ・ガール・フライデー』と同じ戯曲が原作なのか。

 

 主人公ジャック・レモンはハードな記者生活に嫌気がさして結婚引退をするつもり。上司ウォルター・マッソーは有能な記者に引退されると困るので、あくどい手口で邪魔しようとする。元が戯曲だけに記者クラブの一室が主要な舞台となり、個性的な記者たち(チャールズ・ダーニングの姿も)、脱走した死刑囚、警察や市のお偉いさんなどが次々現れて大騒ぎを繰り広げる。人物の出し入れの切れ味はさすがワイルダー。死刑囚を助ける娼婦キャロル・バーネットが場面をさらう。ジャック・レモンの婚約者役スーザン・サランドンが初々しい。

 

 未見だけど、同じ原作戯曲をデッド・コッチェフが映画化したのが『スイッチング・チャンネル』(1988年)。記者役が女性(キャスリーン・ターナー)なので、直にホークス版のリメイクなのかな。

 

 『悲愁』(1978年)は隠遁生活を送る伝説的な女優フェドーラの秘密を巡るミステリアスな物語。かつて一世を風靡した人気女優のその後を描くハリウッド内幕もの。テーマ的には『サンセット大通り』(1950年)の別バージョンの趣。主演も同じウィリアム・ホールデンだ。マイケル・ヨークヘンリー・フォンダが本人役で出演。この辺の虚実織り交ぜた感覚も共通している。

 

 フェドーラの自室に隠されたノート、手袋、美容手術の様子、女優の神話を守ろうとする人々の振る舞いはかなり怖い。カルト的オーラを放つ『サンセット大通り』に比べると大分地味だけどとてもいい映画だと思う。スターの条件を問われたホールデンの答えが印象的だ。

「砂糖とスパイスの下に、セメントと鋼鉄の心」

 

 フェドーラを演じるのはマルト・ケラー。個人的にはマカロニウエスタンやユーロ・アクションでお馴染みのマリオ・アドルフがホテルの支配人役でコミカルな演技を披露するのが嬉しかった。