Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『惑星9の休日』『夜とコンクリート』(町田洋)  

惑星9の休日

惑星9の休日

夜とコンクリート

夜とコンクリート


 友人のくにとも師から薦められた、町田洋の作品集『惑星9の休日』『夜とコンクリート』を再読。いつからかほとんど漫画を読まなくなってしまったので、高評価を得ているという町田氏の作品も初めて知った次第。世の主流の「萌え絵」とは違って、余白の多い絵柄は懐かしさを感じるタッチで、日常とSFが優しく融合したような世界観が特徴だ。絵柄といい内容といい意外に好き嫌いがはっきりと分かれるかもしれないなと思う。個人的には、絵柄も内容もこれくらい余白がある方が好み。自分の体験はもちろん、お気に入りの映画や小説の記憶がふわふわと呼び覚まされるような気持ち良さがある。


 『惑星9の休日』(2013年)は、一瞬にして凍りついてしまった古い街の女性に恋をしてしまった男と、男を好いている女の子(凍りついてしまった女性の孫)との交流を描いた表題作がいい。ふとクリストファー・プリーストのロマンティックな短編『限りなき夏』(初めての抱擁の直前、謎の装置でホログラムの中に封じ込められてしまった恋人たちを描く)を思い出した。映画のフィルムを巡るドタバタ劇「UTOPIA」も良い。フィルム缶って絵的に面白いし、どんな映画が収納されているのかとあれこれ想像を掻き立てられるはないですか。自宅のPCでデータ配信の映画を鑑賞することが主流になると、映画を「物質」として奪い合ったり抱きしめたりする姿も想像できなくなってしまうのかなあと。


 『夜とコンクリート』(2014年)の表題作は、不眠ぎみの建築士が、「建物の声を聴く能力」を持つという青年と出会うというお話。チャイナ・ミエヴィルの短編『基礎』(建物の基礎と対話出来て建物の状況を知ることの出来る男の話)を思い出した。夏休みの大学生たちが不思議な体験をする『夏休みの町』は、自然なスケール感が心地よい日常SF。オチは(今の自分には)いささか納得しかねるものだけど。


 本書を進めてくれた友人のくにとも師は『夏休みの町』について、「あの頃こんな風にやればよかったんだ」と書いていた。あの頃。高校時代、僕らは美術部と新聞部の仲間で自主映画を撮っていた。長編シナリオなんて書くの初めて。どうやってお話を終わらせていいのか分からず、オチがなかった。お話はどこへも収束せず、混沌としたまま。シナリオにはラスト「スピルバーグ!」と書いてあったと思う(「ポルターガイスト!」だったかも)。撮影もそんな具合で、いつ終わりを迎えるのか見えないまま、週末となれば集まって、延々と撮影を続けていたっけ。「あの頃こんな風にやればよかったんだ」そうかもしれない。と、極めて個人的なあれこれを思い出すきっかけにもなった。くにとも師、ありがとさん。


 巻末に掲載された『発泡酒』とか読むと、若いな、と思う。作者は何歳ぐらいの人なんだろう。他の作品もチェックしてみたい。


限りなき夏 (未来の文学)

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ジェイクをさがして (ハヤカワ文庫SF)

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