Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『12人の怒れる男/評決の行方』(ウィリアム・フリードキン)

 

 長いこと積読状態になっていたウィリアム・フリードキン監督『12人の怒れる男/評決の行方』(1997年)をようやく鑑賞。数年前に購入したレンタル落ちの中古DVD。

 

 ある殺人事件の裁判を巡って12人の陪審員が白熱の議論を戦わせるディスカッション・ドラマの名作『十二人の怒れる男』(1957年)をフリードキンがリメイク。レジナルド・ローズによるオリジナル脚本をそのまま使用、不要な脚色は一切なしで忠実に映像化している。『十二人の怒れる男』は元が戯曲なのかと思っていたら、実はフランクリン・J・シャフナー演出のTVドラマ版(1954年)が最初で、その後映画版(1957年)という流れのようだった。フリードキン版を含め、後の様々なリメイク作品は基本的にレジナルド・ローズの脚本に沿っているようで、その揺るぎない強度、高い完成度が伺える。

 

 オリジナル版でヘンリー・フォンダが演じた陪審員8番役ジャック・レモン。他にジョージ・C・スコット、エドワード・ジェームズ・オルモスオシー・デイヴィスジェームズ・ガンドルフィーニアーミン・ミューラー=スタールウィリアム・ピーターセン、ヒューム・クローニンら濃おおおい顔触れ。中でも移民の時計職人を演じたエドワード・ジェームズ・オルモス(『ブレードランナー』のガフ役の人)が良かった。得意の激怒演技を惜しみなく披露するジョージ・C・スコットの哀感も素晴らしい。フリードキンはさすが腰の据わった演出ぶりで、名優たちの激突をじっくりと捉えて実に見応えがあった。

 

 そういえば、先日見たドキュメンタリー『フリードキン・アンカット』では「TV畑出身でワンテイク目を好む早撮りの名手」という点においてフリードキンとシドニー・ルメットの共通点を指摘していた。

 

 フリードキン版鑑賞後、ルメット版がどんなだったか気になって、DVD探し出してこちらも再見してみた。前に見たのは中学生の頃(確か水曜ロードショー)。当時俳優の名前なんてあんまり知らなかったので、ヘンリー・フォンダ以外はノースターという記憶だったが、リー・J・コッブ、エド・ベグリー、マーティン・バルサムジャック・ウォーデン、ロバート・ウェッバーとこちらも十分に濃い顔ぶれだった。改めて見ると、密室劇の緊張感、画面構成の緊密さなどルメット監督デビュー作とは思えぬ切れ味で感心した。ただ、ヘンリー・フォンダが最初から堂々とし過ぎていて、終盤、有罪を主張する残り3人を追い詰めていくあたりなんか違うんじゃないかなあと違和感があった。ちょっと説教臭い印象を受けるというか。この点ではフリードキン版のジャック・レモンの方が、普通の人の粘り強い頑張りに周囲が説得されていく過程に説得力があったように感じたがどうだろうか。