Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『さらば、シェヘラザード』(ドナルド・E・ウェストレイク)

 

 

 久々にドナルド・E・ウェストレイクを。『さらば、シェヘラザード』Adios Scheherezade(1970年)読了。ウェストレイクといえば〈泥棒ドートマンダー〉シリーズ、リチャード・スターク名義の〈悪党パーカー〉シリーズ等で知られるミステリー界の巨匠。そのウェストレイク作品にしてこれまで邦訳が出ていなかったのは(初訳は2018年)、本作が非ミステリーかつかなり実験的小説ゆえとのこと。これは読んで納得、かなりの怪作でありました。

 

 語り手のエド・トップリスはポルノ小説のゴーストライター。スランプに陥り、締切が近づいても執筆は全く進まない。第一章を書いては捨て書いては捨てを繰り返し、ようやく第一章を書き上げたと思ったら、小説を書いていたはずがいつの間にか自分の回想録になってしまったり、小説を書けない愚痴を延々書き連ねてみたり、ポルノ小説のセオリーを説明してみたり、物語は一向に進まない。ある日、書きかけの原稿を妻に見られてしまったことから、とんでもないトラブルに発展して・・・というお話。小説は第一章が延々と繰り返され、やっと物語が動き始めたと思ったら、主人公の実録・妄想・小説・ポルノ小説論等が入り混じったメタな世界へと展開していきます。この辺の人を食ったタッチは、ユーモア・ミステリーを得意とするウェストレイクの独壇場。いや面白かった。

 

 本書の解説によると、ウェストレイクは無名時代に別名でポルノ小説を書いていたとのこと。小説を何本も書いているのに、作家として認知されないことに苛立つ主人公の姿には、冗談めかしてはいるけれど、自伝的というか実体験をベースにしたエピソードが多数含まれているのかもしれません。

 

 ちなみに、来る4/4にはNHKBSPにてウェストレイク原作、ドートマンダー・シリーズの映画化『ホット・ロック』(監督ピーター・イエーツ)が放映されます。傑作なんで未見の方はぜひチェックを。

 

 下記は過去にウェストレイクについて書いた記事です。よろしかったらこちらも読んでいただけると嬉しいです。


『殺しあい』 https://kinski2011.hatenadiary.org/entry/20141028/p1

『ジミー・ザ・キッド』 https://kinski2011.hatenadiary.org/entry/20141020/p1

『二役は大変!』 https://kinski2011.hatenadiary.org/entry/20141005/p1

『嘘じゃないんだ!』 https://kinski2011.hatenadiary.org/entry/20141003/p1

『我輩はカモである』 https://kinski2011.hatenadiary.org/entry/20140930/p1

『聖なる怪物』 https://kinski2011.hatenadiary.org/entry/20140927/p1

『鉤』 https://kinski2011.hatenadiary.org/entry/20140925/p1

『斧』 https://kinski2011.hatenadiary.org/entry/20140923/p1