Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『冬の猿』と「お酒映画Best10 '24」

 

 以前「お酒映画ベストテン」を作成したことがあります。 https://kinski2011.hatenadiary.org/entry/20180426/p1

 あれから6年、改めて「お酒映画ベストテン」をリストアップして見ました。何故にといえば、このジャンルにジャストマッチするとびきりの名作を見てしまったからです。アンリ・ヴェルヌイユ冬の猿』!

 

冬の猿』(1962年)

 これは酒飲みのファンタジー、酔っ払い映画のマスターピース。監督は『地下室のメロディー』『シシリアン』のアンリ・ヴェルヌイユジャン・ギャバンジャン=ポール・ベルモンドの新旧スター共演作だ。かつて大酒飲みだったホテル経営者ギャバンは妻に禁酒を誓い、戦後は酒場に足を踏み入れていなかった。ホテルの客としてやって来たベルモンドは愛人との別れで荒れ模様。泥酔するベルモンドを介抱するうちに、次第に親子のような情が芽生えてくるが・・・。冬のノルマンディーで出会った2人の男が友情を育む物語で、大筋はそういう映画なんだけど、それより何より飲酒・泥酔の場面がかなりのウェイトを占める映画なのだった。

 カウリスマキ映画の酔っぱらいはひとりで寡黙に飲むタイプ。本作のギャバン&ベルモンドは酔って暴れるタイプで、はた迷惑な騒ぎが延々と描かれる。酒場で暴れる場面はともかく、道路で闘牛士の真似事をして渋滞を引き起こす場面や、深夜に娘の寄宿舎に押し入る場面とかかなりキツかった。それでもどこかユーモラスで可愛げがあるのはギャバン、ベルモンドのスターの輝きがあればこそか。空襲の中酔っぱらったギャバンが家路を目指す場面や、夜の花火大会、ベルモンドのフラメンコなど、意外に派手な見せ場もあり飽きさせない。

 『冬の猿』という奇妙な題名は、劇中でギャバンが「中国では冬になると迷い猿が里に下りて来る」と語るエピソードから。2匹の迷い猿の友情(と飲酒)の物語なのだ。

 

 という訳で、『冬の猿』を加えての新たなマイ「お酒映画Best10」は下記の通り。

①『冬の猿』(監督アンリ・ヴェルヌイユ/1962年/フランス)

②『バーフライ』(監督バーベット・シュローダー/1987年/アメリカ)

③『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(監督エドガー・ライト/2013年/イギリス)

④『秋刀魚の味』(監督小津安二郎/1962年/日本)

➄『孤独な場所で』(監督ニコラス・レイ/1950年/アメリカ)

⑥『フライト』(監督ロバート・ゼメキス/2012年/アメリカ)

⑦『火山のもとで』(監督ジョン・ヒューストン1984年/アメリカ)

⑧『トゥリーズ・ラウンジ』(監督スティーヴ・ブシェミ/1996年/アメリカ)

⑨『失われた週末』(監督ビリー・ワイルダー/1945年/アメリカ)

⑩『アル中女の肖像』(監督ウルリケ・オッティンガー/1979年/西ドイツ)

 

 ちなみに前回のセレクト。1『ダンボ』、2『秋刀魚の味』、3『バーフライ』、4『トゥリーズ・ラウンジ』、5『白い刻印』、6『孤独な場所で』、7『火山のもとで』、8『シャイニング』、9『フライト』、10『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』。

 セレクトを終えて、当時も思いましたが「お酒映画」というよりこれは「酔っ払い映画」ですね。現実の酔っぱらいは嫌なものだけど、映画で見ると愉快なのは何故だろう。世話や後始末しないで済むからかな。