Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『十三人の刺客』(三池崇史)

十三人の刺客 通常版 [DVD]

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十三人の刺客


 監督/三池崇史
 脚本/天願大介
 撮影/北信康
 音楽/遠藤浩二
 出演/役所広司伊原剛志松方弘樹稲垣吾郎市村正親
 (2010年・141分・日本)


 90年代後半から量産体制に入った三池崇史監督は、アイドル映画からホラーまであらゆるジャンルを撮りまくり、正に一人撮影所状態。多作故にムラが激しくて映画に完成度を期待する向きには評判が悪い。誰かが「3日間徹夜したというような勢いはあるけれど、3日間しかかけてないという雑さが遺憾ともし難い」なんて事を書いてたっけ。


 三池監督の近作十三人の刺客見る。工藤栄一監督の名作(1963年)をリメイクした時代劇大作。江戸時代末期、蛮行を繰り返す将軍の弟・松平斉韶(稲垣吾郎)を暗殺するべく密命を受けた島田新左衛門(役所広司)ら十三人の男たちの死闘を描く。


 物語から導き出されるテーマとしては、サムライ社会の理不尽さとそれに抗う個人の闘い、ということになるだろうか。島田新左衛門(役所広司)と鬼頭半兵衛(市村正親)という旧知の間柄である2人の侍の対立を軸に分かり易く描かれている。演じる役所と市村の存在感もあって、そのテーマは説得力を持って伝わってくる。


 しかし、三池が着目するのは別の部分だ。江戸時代も末期にさしかかり、サムライたちは腰に刀をぶら下げているものの実際に人を斬った経験など無い。目的意識を失ったサムライたちが、闘いを通して生気を取り戻してゆく。まあ言ってみれば「男(オス)」の本能を描いた作品と言えるだろうか。釣りや博打に無為な時間を過ごしていた主人公たち、残虐な行為を繰り返す将軍の弟さえ、真に欲していたものは同じなのだろう。そこを的確に押さえているので、演出は多少乱調気味でもちゃんと映画としての整合感が生まれている。時折、いかにも三池らしい毒々しい演出やハズした演出が顔を出すが、最後まで緊張感が途切れるという事はなかった。


 クライマックス直前、大軍勢を前にした13人の刺客が掲げる「みなごろし」の旗印。個人的にはあの場面だけでOKな感じだ。三池は『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』で表現し損ねたマカロニ・ウエスタンの精神を、本作で見事復活させたのだ。


 刺客を演じる役所広司伊原剛志松方弘樹沢村一樹古田新太らの顔つきと殺陣はなかなかに素晴らしい。脇を固める市村正親平幹二朗らの重厚感。公開当時話題を呼んだ稲垣吾郎の悪役ぶりも予想以上に良かった。稲垣は「迷わず、愚かな道を選べ」という名台詞を見事に体現していたと思う。唯一、伊勢谷友介だけはミスキャストではないかなあ。山の民のキャラクターは三池があえて仕込んだ軽みの部分だと思うが、この映画で最も失敗している部分ではないだろうか。


 さておき『十三人の刺客』は、膨張を続ける三池のフィルモグラフィーの中ではかなり上位に位置する作品だと思う。何だかんだ言っても三池の映画は見続ける価値があると改めて思った。三池の作品では『極道戦国志 不動』『DEAD OR ALIVE 犯罪者』『殺し屋1』といった飛び道具も面白いけれど、個人的には『日本黒社会 LEY LINES』『極道黒社会 RAINY DOG』『オーディション』の3本が何と言っても素晴らしいと思う。