Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

今年見た映画(その3)

 前回の続きです。今年見た映画で、まだブログに感想を書いていなかったものについて書き記しておきます。



ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(クリストファー・マッカリー) 2015年


 トム・クルーズ主演の人気スパイ・アクション・シリーズ第5弾。テンションは衰えず、工夫を凝らした見せ場の連打と目を見張るアクションに大満足でした。監督はアクション映画の隠れた逸品『誘拐犯』、トム主演の『アウトロー』を手掛けたクリストファー・マッカリー。今回も狭い路地でのカーチェイスと、バイクチェイスでアクション演出の腕の冴えを見せてくれます。キャストの中では第3作から登場したサイモン・ペッグが大出世です。この大作でクレジット堂々3番目だもんね。アクションを牽引するのは女スパイのイルサ(レベッカ・ファーガソン)で、ルックスも身のこなしも文句なし。クライマックスの見せ場(定番のタイマン勝負)はイルサに託し、イーサン・ハントは一歩退いているのも好印象でした。


(『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』MISSION: IMPOSSIBLE ROGUE NATION 監督・脚本/クリストファー・マッカリー 撮影/ロバート・エルスウィット音楽/ジョー・クレイマー 出演/トム・クルーズジェレミー・レナーサイモン・ペッグレベッカ・ファーガソンヴィング・レイムスショーン・ハリスアレック・ボールドウィン 2015年 131分 アメリカ)




『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(ヴィム・ヴェンダース) 2011年


 久々のヴェンダース。亡くなった舞踊家ピナ・バウシュの偉大な功績を称えるドキュメンタリー映画です。ヴェンダースはこれまでにも『東京画』『都市とモードのビデオノート』『ニックス・ムービー/水上の稲妻』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』といった名作ドキュメンタリーを撮っているだけあって、とても見応えのある作品に仕上がっています。最近のヴェンダースの劇映画より面白いかも、と言っては失礼でしょうか。
映画はピナ・バウシュ率いるヴッパタール舞踊団の舞台、団員へのインタビュー、団員たちのソロダンスで構成されています。ソロダンスは屋外で撮影されているのが良いなあ。とにかく団員たちが皆イイ顔してるんですよ。ダンスっていうと若さを連想してしまうのですが、ヴッパタール舞踊団の面々は年齢層が幅広くて、メンバーが列を組んで舞台に現れる場面などその顔つき体つきのバリエーションを見ているだけで楽しい。あんまり興味の無いジャンルではありましたが、彼らの舞台もソロダンスも本当に格好良いと思いましたね。


(『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』 PINA 監督・脚本/ヴィム・ヴェンダース 撮影/エレーヌ・ルヴァール 音楽/トム・ハンライヒ 出演/ピナ・バウシュ、ヴッパタール舞踊団 2011年 104分 ドイツ/フランス/イギリス)




『WHO AM I?/フー・アム・アイ?』(ジャッキー・チェン、ベニー・チャン) 1998年


 未見だったジャッキー・チェン監督・主演作『WHO AM I?/フー・アム・アイ?』。ジャッキー=石丸博也の吹替版にて鑑賞。事故で記憶を失った特殊部隊の隊員(ジャッキー)が、自分の素性を求めて冒険を繰り広げます。お話は無茶苦茶だし、ジャッキー作品の中で突出した傑作という訳ではないけれど、ユーモアを交えたアクロバティックなアクションの数々は唯一無比のものですね。久々にジャッキー・チェンの元気なアクションが見れて楽しかった。終盤に高層ビルの上で繰り広げられるアクションは、高所恐怖症にはキツい見せ場でありました。


(『WHO AM I ?』我是誰? 監督/ジャッキー・チェン、ベニー・チャン 脚本/ジャッキー・チェン、スーザン・チャン、リー・レイノルズ 音楽/ネイサン・ウォン 撮影/プーン・ハンサン 出演/ジャッキー・チェン、ミシェル・フェレ、山本未来、ロン・スメルチャク、エド・ネルソン 1998年 108分 香港)


WHO AM I? フー・アム・アイ? [DVD]

WHO AM I? フー・アム・アイ? [DVD]



THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』(押井守) 2015年


 『機動警察パトレイバー』のOVAシリーズから25年目(もうそんなに経ったのか・・・)を迎えるということで、押井守総監督のもとで実写版プロジェクトがスタート。短編シリーズを経て、劇場用長編が公開されました。先行する短編シリーズを一通りチェックした感想は、一言「汚しが足りないのではないか」というものでした。レイバー他機材の質感も、二課や整備班の面々の顔つきも何か嘘っぽい。これって実写という点では最重要課題なのではないかと。お話は基本的にオリジナルシリーズ初期を踏襲して、特車二課のダラダラした日常を描いています。これもアニメ調に誇張されたドタバタ演技(演出)と俳優たちがうまく馴染んでいないという印象を受けました。もうひとつ強く感じたことは、かつてはパロディやオマージュの対象は映画でしたが、今やその対象は過去のアニメになったのだなあと。元アニヲタとしてはネタバレが微笑ましくもありますが・・・。

 さておき、劇場版の感想です。テロリスト集団が最新鋭戦闘ヘリ“グレイゴースト”を強奪し、東京を攻撃する。見えない戦闘ヘリの攻撃に警察と自衛隊が翻弄される中、今や解散寸前の特科車両二課が立ち上がる・・・というお話。時代設定はアニメ版のシリーズの後日談になっていますが、映画としてはほぼ『機動警察パトレイバー 2 the Movie』の実写版リメイクといっても差し支えないでしょう。ポンコツ集団が団結して頑張るパターンや主人公たちと対峙するヘリパイロットの正体とか、もの凄く好みの展開で、娯楽映画としては普通に面白かったです。でも、『機動警察パトレイバー 2 the Movie』とほぼ同じようなことをやっているはずのに、随分スケールが小さく感じられました。映画としてのスケール感はもちろん、現在の東京を覆う不穏な感覚、闇の濃さの描写も。


(『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』 監督・脚本/押井守 撮影/町田博、工藤哲也 音楽/川井憲次 出演/筧利夫真野恵里菜福士誠治太田莉菜、田尻茂一、堀本能礼、しおつかこうへい、千葉繁森カンナ高島礼子吉田鋼太郎 2015年 94分 日本)




龍三と七人の子分たち』(北野武) 2015年


 引退した元ヤクザの龍三(藤竜也)が、オレオレ詐欺に引っかかったことから、昔の仲間を集めて犯人グループに戦いを挑むが・・・というお話。現在の北野武の立ち位置からはあんまり想像できないけれど、当初「コメディアンが映画監督を」するという出目から期待されていたのはこういった映画ではないかと思ったりしました。

 誰が新しい親分になるか競う焼き鳥屋での問答とか、街宣車のくだりとか、中尾彬のとんでもない扱いとか、大いに笑えて楽しい映画でした。7人のまとまりの無さも良かった。慶一さんの音楽はユーモアともの悲しさを漂わせて秀逸。エンディングに流れるロングバージョンではくじらさんの演奏もちょっと聴けます。本作の音楽にタンゴを指定してきたのは武だったとのこと。北野監督+慶一音楽のコンビはこれからも続けて欲しいなあ。

 少しだけ気になったのは、映画の体感速度というか、テンポが若干遅いなということでした。ギャグにも言えて、女装のくだりとか、クライマックスのカーチェイスとか、特にそう感じました。北野監督のサービス精神として客層を考えて敢えてそうしたのか、それとも本作のテンポが現在の北野監督の生理的な速度なのか、その辺は分かりませんが。

 さておき、本作と二本立てで見るなら『お達者コメディ/シルバー・ギャング』(1979年)ですかね。監督は『ミッドナイト・ラン』『ビバリーヒルズ・コップ』のマーティン・ブレスト。老人3人組(ジョージ・バーンズ、アート・カーニー、リー・ストラスバーグ)が銀行ギャングを働くというお話で、ほのぼのコメディかと思いきや、まんまと大金をせしめたのに使う間もなく次々死んでしまうというビターな味わいの佳作です。


(『龍三と七人の子分たち』 監督・脚本/北野武 撮影/柳島克己 音楽/鈴木慶一 出演/藤竜也近藤正臣中尾彬品川徹樋浦勉、伊藤幸純、吉澤健、小野寺昭 2015年 111分 日本)




『白魔女学園』(坂本浩一) 2013年


 でんぱ組.inc主演の特撮ヒロインもの。でんぱのファンとしては、一抹の不安を覚えつつチェックしてみました。心に傷を持つ少女たちを受け入れる「白魔女学園」。そこでは「白魔女」の魔力を獲得するための過酷な試練が待ち受けていた・・・というお話。ジャンル的にはホラーの領域(血飛沫が上がる場面なんかもあり)なんだけど、全編画面が明るくて何だろうなあと。監督は「仮面ライダー」シリーズや戦隊シリーズを手がけてる人らしくて、そういわれると画面構成やアクション、俳優たちのやけにメリハリの利いた芝居など正にそんな感じ。せめて『ザ・クラフト』くらいのレベルになってればなあ。でんぱの皆は全力投球で演ってるだけに、痛々しいものがありました。ユーモアが基調になってないと彼女たちの個性は生きてこないと思うんですよね。実質の主演はもがちゃんで、我が推しメンのりさちーは敵役でありました。で、これには続編もあるんですよね。ううむ。


(『白魔女学園』 監督/坂本浩一 脚本/吉田玲子 撮影/百瀬修司 音楽/三澤康広出演/でんぱ組.inc山谷花純、小宮有紗高良光莉、白石さえ、相川結 2013年 130分 日本)


白魔女学園 [DVD]

白魔女学園 [DVD]



『渇き。』(中島哲也) 2014年


 失踪した娘を探す父親の話、といえばジョン・フォードの『探索者』(1956年)、『ハードコアの夜』(1979年)がすぐに思い浮かびます。『渇き。』は、謎の失踪を遂げた娘の行方を追う父親(役所広司)が、娘の裏の顔と危険な交友関係を知って、怒りで暴走してゆく・・・というお話で、明らかにその系譜に連なる作品です。原作は深町秋生、監督は『嫌われ松子の一生』の中島哲也。登場人物誰も彼も過剰で、演技も映像もまた過剰。映画は最初から最後までハイテンションで、時勢ズラシ、凝ったカット割り、怒号、血糊、全てを過剰に撒き散らします。で、その過剰さが映画的な興奮をかきたててくれないのがもどかしい。『ナチュアラル・ボーン・キラーズ』の頃のオリバー・ストーンみたい。過剰過ぎて、主人公の孤独や絶望に寄り添えないのだ。

 いいなと思ったのは、娘の正体が明らかになるパーティーの場面。このシークエンスは音楽がガンガン流れていて台詞はない。が、映像だけでパーティーに参加した個々のキャラクターの距離関係がちゃんと伝わってくる。だからここの映像は過剰、じゃなくて、適切。CMをたくさん手掛けている中島哲也監督だけに、実はこういうのお手のものなのだろうと思いますが。このシークエンスで流れてるのがでんぱ組.incの曲なんですよ。だからいいって言ってるわけではないですよ別に!
 

(『渇き。』 監督/中島哲也 脚本/中島哲也、門間宣裕、唯野未歩子 原作/深町秋生 撮影/阿藤正一 音楽/GRAND FUNK ink. 出演/役所広司小松菜奈妻夫木聡清水尋也二階堂ふみ橋本愛黒沢あすかオダギリジョー中谷美紀 2014年 118分 日本)




風立ちぬ』(宮崎駿) 2013年


 やっと見ましたよ『風立ちぬ』。零戦の設計で知られる堀越二郎の半生を描いた伝記映画。堀辰雄の小説『風立ちぬ』の要素も盛り込まれ、かなり駿の趣味色が強い仕上がりとなっていました。主人公二郎は非常にエキセントリックな人物として描かれていて、二郎は幼少の頃から飛行機(飛行幻想)に囚われていて、寝ている夢の中でも起きて生活している時でも、気がつくと飛行機のことを考えています。映画の語り口もそんな二郎の主観に沿って進行します。関東大震災、太平洋戦争、病床の妻との死別、飛行機作りの栄光と挫折、とドラマティックな要素はてんこ盛りで、普通に描けばさぞかし感動的な大作になったかもしれませんが、震災も戦争も二郎の目の前を通り過ぎてゆくだけで、彼の関心を惹くのは飛行機と妻のことだけです。

 『ハウル』あたりから、どうも駿はオーソドックスな語り口に興味を失ってる(もしくはボケちゃって辻褄が合わなくても気にならなくなっている)のかと思われる節がありました。本作の飛ばしっぷりも正にそんな感じですが、もしかすると、本作ほど駿の主観に沿った映画はないのかもしれません。一般的な意味での感銘は薄いにしても、主人公と作者の目線がピタリと一致しているという意味では興味深い作品であるのは間違いありません。実を言うと、予想よりはずっと面白い映画でした。恐らく駿が興味を持っているであろう戦前戦中の生活描写や飛行機作りに励む技師たちの様子などは、実に丁寧に描かれていました。

 公開当時に見た友人たちの間では賛否両論でした。映画好き(宮崎駿の映画と聞いてイメージするものがある人)の間ですらそうなので、ジブリアニメというだけで劇場に見に行った親子連れはさぞかし戸惑っただろうなあと思います。ちなみに、公開当時に飲み屋のおねえちゃんが『風立ちぬ』見たと語っていて、いやジブリの集客力(信頼度というか)は凄えなあと思った記憶があります。彼女の感想は「キスシーンが何かヤだった」(笑)。そして「ひこうき雲」をユーミンの新曲だと思ってましたね。

 この後、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』を見たんですが、異様な雰囲気に耐えられず途中で挫折してしまいました。過剰さという面では高畑勲宮崎駿の遥かに上を行ってるのではないでしょうか。妙にふにゃふにゃとした動き、地井武男の熱のこもり過ぎた演技、と何だか見てはいけないものを見てしまったようないたたまれない気持ちになりました・・・。


(『風立ちぬ』 監督・脚本/宮崎駿 撮影/奥井敦 音楽/久石譲 出演(声)/庵野秀明瀧本美織西島秀俊、西村雅彦、スティーブン・アルパート、風間杜夫竹下景子 2013年 126分 日本)



惑星ソラリス』(アンドレイ・タルコフスキー) 1972年


 スタニスワフ・レムの『ソラリス』を読み返して感動したので、映画版も見直してみました。タルコフスキーのタッチは思わせぶりでどうも好きになれず、学生時代に見た本作もあんまり良い印象がありませんでした。『ソラリス』の巻末の解説に、解釈を巡ってレムとタルコフスキーが大喧嘩したとの記載があったので、映画はどんなだったかなあと。改めて見直してみると、これはほとんどホラー映画でしたね。惑星ソラリスの海がステーションの乗員たちの意識下から生み出した「お客」の描写、友人の自殺死体、いないはずの人物の痕跡、タルコフスキーお得意の人体浮遊、繰り返し繰り返し蘇る女・・・。レムがこっぴどく批判したラストも、タルコフスキーの解釈がどうのこうのと言うより、はっきりと「あの世行き」だよなあ。死ぬ前に故郷の幻影を見た、という風にしか見えん。


(『惑星ソラリス』Солярис 監督/アンドレイ・タルコフスキー 脚本/アンドレイ・タルコフスキー、フリードリッヒ・ガレンシュテイン 撮影/ワジーム・ユーソフ 音楽/エドゥアルド・アルテミエフ 出演/ナタリア・ボンダルチュク、ドナタス・バニオニス、アナトーリー・ソロニーツィン、ソス・サルキシャン、ユーリー・ヤルヴェト  1972年 165分 ソ連


惑星ソラリス HDマスター [DVD]

惑星ソラリス HDマスター [DVD]



次回、ディズニーアニメ編に続く。