Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『SUZUKI白書 SUZUKI WHITE REPORT』(鈴木慶一)


 『火の玉ボーイ』から実に15年目のソロ第二作が『SUZUKI白書 SUZUKI WHITE REPORT』(1991年)。曲ごとにプロコル・ハルムのマシュー・フィッシャー他英国の敏腕プロデューサーを迎え、レコーディングは東京、イギリス、台湾他海外でも行なわれた。


 収録曲は、


 M-1.「GOD SAVE THE MEN [やさしい骨のない男]」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-2.「JAPANESE 一次好 SONG [JAPANESE "It's Alright" SONG]」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-3.「サラダボウルの中の二人 [ME AND MY GIRL IN A SALADBOWL]」(作詞/鈴木慶一 作曲/鈴木慶一・DAVID MOTION)
 M-4.「白と黒 [WHITE AND BLACK]」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-5.「LEFT BANK [左岸]」(作詞/鈴木慶一 作曲/THE BEATNIKS
 M-6.「WORDS, COLOURS, NOISES AND BOOMS」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-7.「月にハートを返してもらいに [SATELLITE SERENADE]」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-8.「SATELLITE SERENADE REMIX [TRANS ASIAN EXPRESS]」(作曲/鈴木慶一
 M-9.「心の底から笑える日来るまで [STILL FIND ANOTHER DAY TO SMILE]」(作詞・作曲/鈴木慶一


 全曲慶一氏の作詞・作曲。ムーンライダーズの『最後の晩餐』や高橋幸宏氏へ提供した歌詞も含め、この頃から慶一氏の詩作には生身の姿が垣間見えるようになってきたと思う。勿論単に赤裸々というに止まらず持ち前のユーモアが存分に発揮されているのが嬉しい。


 アルバム冒頭の「GOD SAVE THE MEN [やさしい骨のない男]」(プロデュースTONY MARTIN)からして強烈だ。彼女に振り回されながらもそれを受け入れ、「だって優しくて骨の無い男だぜ」と自虐的に呟く情けない男の姿には同情を禁じえない。というか笑えないよオレは。神よ、男を救い給え、だ。この頃の慶一氏は情け無い男の心情吐露ソングを書かせたら最強だと思う。


 台湾の高砂族の女性コーラスをフィーチャーしたM-2「JAPANESE 一次好 SONG」(セルフ・プロデュース)は慶一氏お得意のオリエンタルなリズムに乗って中年男の心情がユーモラスに綴られる。M-3「サラダボウルの中の二人」(プロデュースDAVID MOTION)は同棲する男女の微妙な距離感を歌った切ない曲。M-4「白と黒」(プロデュースMATTHEW FISHER)は慶一氏の美メロが炸裂する名曲。歌詞はとてもエロティックだ。THE BEATNIKS の名曲として名高いM-5「LEFT BANK [左岸]」(プロデュースDAVID BEDFORD)。幸宏ヴァージョンと一味違う流麗なストリングス・ヴァージョン。何度も書くけど、この歌詞は本当に凄い。


 冒頭3曲の軽妙な雰囲気から、アルバムは後半に進むにつれ次第に深く静謐な世界へと変化してゆく。M-6「WORDS, COLOURS, NOISES AND BOOMS」(プロデュースANDY FALCONER)、M-7「月にハートを返してもらいに」」(セルフ・プロデュース)、M-7のリミックス・ヴァージョンM-8「SATELLITE SERENADE REMIX [TRANS ASIAN EXPRESS]」(プロデュースDr.ALEX PATERSON)、そしてM-9「心の底から笑える日来るまで」」(セルフ・プロデュース)・・・。ハウスというよりはテクノ、日本〜イギリス〜台湾と放浪して届けられた曲たちの手触りはとてもヘヴィだ。特にラストの『心の底から笑える日来るまで』は驚くほどのストレートさで心に響く。


 M-8「SATELLITE SERENADE REMIX [TRANS ASIAN EXPRESS]」はThe OrbのDr.ALEX PATERSON によるM-9「心の底から笑える日来るまで」のリミックス・ヴァージョン。別ヴァージョンを加え、suzuki K1>>7.5cc名義でシングルとしてリリースされた。





 ちなみに、その続編とも言えるのが、1999年にリリースされたsuzuki K1>>7.5cc名義のシングル第2弾『Yes, Paradise, Yes』(カップリング「Mogami river boat song」)。こちらには短い日本語詩がついていて、諦観に満ちたこの詩はヘイト船長三部作等に至る重要なものだと思っているがどうだろうか。素材のレコーディング中(1995年)に武川氏のハイジャック事件を知ったそうで、ジャケットにはスペシャル・サンクスならぬ「No thanks to Hijacker」との文字が記されている。





SUZUKI白書~スズキ・ホワイト・リポート

SUZUKI白書~スズキ・ホワイト・リポート