Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『最後の晩餐 Christ, Who's gonna die first?』(ムーンライダーズ)


 1986年に10周年を迎えたムーンライダーズは、アルバム・リリースやアニバーサリー・ライヴ等活発な活動を行なった。その後バンドは約5年に渡って活動を休止し、メンバーはプロデュースやソロアルバムなど各自ソロ活動を展開。ファンの間ではこのまま自然消滅するのではないかとの憶測も流れたが、1991年に活動を再開。東芝EMIに移籍して1991年4月にアルバム『最後の晩餐 Christ, Who's gonna die first?』をリリースする。


 収録曲は、



 M-1.「Who's gonna cry?」(作詞・作曲/岡田徹
 M-2.「Who's gonna die first?」(作詞/鈴木博文 作曲/白井良明
 M-3.「涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない」(作詞/鈴木慶一 作曲/岡田徹
 M-4.「Come sta, Tokyo?」(作詞・作曲/白井良明
 M-5.「犬の帰宅」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-6.「幸せな野獣」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-7.「ガラスの虹」(作詞/鈴木博文 作曲/白井良明
 M-8.「プラトーの日々」(作詞・作曲/かしぶち哲郎
 M-9.「Highland」(作詞/かしぶち哲郎 作曲/武川雅寛
 M-10.「はい!はい!はい!はい!」(作詞/鈴木博文 作曲/鈴木慶一渚十吾
 M-11.「10時間」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-12.「Christ, Who's gonna die and cry?」(作詞・作曲/鈴木慶一


 私は86年からの遅れてきたライダーズ・ファンなので、活動休止期間には過去のアルバム、メンバーのソロ活動をみっちり復習して頭の中は新譜への期待ではちきれそうになっていた。正装したメンバーが丸焼きの豚を囲む怪しいジャケット・デザインに、これはどんなアルバムだろうと聴き始めると・・・。


 ゲストのアンディ・パートリッジ(XTC)によるメンバー紹介が終わると、こんなコーラスが聞こえてくる。「誰が最初に死ぬか?」・・・。M-2「Who's gonna die first?」で歌われるのは壊れかかった(しかしごく普通の)家族の姿だ。ハードなギターがうなり、「誰が最初に死ぬか?」と繰り返すコーラスに対して、親父は「俺であるはずがない」と叫ぶ。暗い内容にもかかわらず、曲はとても元気で、慶一氏のヴォーカルもいつになく気合が入っている。初めからそんなに飛ばしておじさん大丈夫? と思わず心配になってしまうが、曲の終わりには息切れして咳き込む所までやってしまうのがおかしい。


 M-2「涙は、悲しみだけで出来てるんじゃない」は男の心情を吐露した歌詞に、ビートルズ・フレイヴァーをまぶしたサウンドが絶妙のマッチングを見せる名曲。個人的なベスト・トラックだ。切ないメロディーが素晴らしい良明氏のM-4「Come sta, Tokyo?」、性と死を謳う博文氏のM-6「幸せな野獣」、かしぶち氏の熱い一面が垣間見えるM-8「プラトーの日々」、とメンバーも個性をフルに発揮。ユーモラスな曲調で閉鎖社会を撃つM-10「はい!はい!はい!はい!」、60年代-70年代の青春期を高速で駆け抜けるM-11「10時間」を経て、アルバムはハードなブルースM-12「Christ, Who's gonna die and cry?」で幕を閉じる。曲の終りがブチって感じで途切れるのが不穏な余韻を残す。


 本作で驚かされたのは、初期の物語性の高い世界からリアル志向へと一気に舵を切った歌詞の充実ぶりだ。M-7「ガラスの虹」やM-9「Highland」のような、従来のライダーズらしい伸びやかなポップ・ソングも収録されているが、目を惹くのは父親の奮闘を描くM-1や崩壊した家庭を描くM-5「犬の帰宅」といったリアル路線の曲だ。放浪のロマンが香る「DON'T TRUST ANYONE OVER 30」に比べると、同じリアル路線とは言っても本作の収録曲はもっと生々しい。ムーンライダーズの変化が刻印されたヘヴィな手応えの問題作である。



Who's gonna die first?

Who's gonna die first?