Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『Tokyo7』(ムーンライダーズ)


 ムーンライダーズは2009年に入ると再び活動を活発化させ、1月から3ヶ月連続のマンスリーライブ、4月には3大都市でのライヴを敢行。さらに6ヶ月に渡って毎月ネット配信で新曲を発表するという企画を実施。ネット配信の新曲にはタイトルや歌詞にTokyoの文字が躍り、ニューアルバムへと繋がっている。


 同年9月にリリースされたデビュー33年目のニューアルバム『Tokyo 7』。あれ、ライダーズのメンバーって6人じゃなかったっけ?と思ってジャケット裏を見ると・・・。この辺の洒落っ気が彼ららしくてニヤリとさせられる。


 収録曲は、


 M-1.「タブラ・ラサ 〜when rock was young〜」(作詞・作曲/かしぶち哲郎
 M-2.「SO RE ZO RE」(作詞/鈴木博文 作曲/岡田徹
 M-3.「I hate you and I love you」(作詞/鈴木慶一鈴木博文 作曲/鈴木慶一
 M-4.「笑門来福?」(作詞・作曲/白井良明
 M-5.「Rainbow Zombie Blues」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-6.「Small Box」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-7.「ケンタウルスの海」(作詞/鈴木博文 作曲/武川雅寛
 M-8.「むすんでひらいて手を打とう」(作詞・作曲/白井良明
 M-9.「夕暮れのUFO、明け方のJET、真昼のバタフライ」(作詞/鈴木慶一 作曲/岡田徹
 M-10.「本当におしまいの話」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-11.「パラダイスあたりの信号で」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-12.「旅のYokan」(作詞・作曲/白井良明
 M-13.「6つの来し方行く末」(作詞/鈴木慶一 作曲/岡田徹


 『Tokyo 7』はほどよく力が抜けているというか、1曲1曲の輪郭がクッキリしていて聴きやすい。もはやアラウンド還暦な男たちが出してるとは思えない元気いっぱいのサウンドには驚かされる。歌詞も(彼らにしては)ストレートで分かりやすいものが多い。


 M-1タブラ・ラサ when rock was young」。まずこの1曲目でヤられた。何だ?このテンションの高さは。武川氏のフィドルが暴れまわるのが嬉しい。「僕らは 溶けない 塊」とバンドの結束を宣言するような歌詞もありグっとくる。M-2「SO RE ZO RE」はハードなギターのイントロで始まる。ライダーズ史上こんなイントロは意外になかったなあと新鮮。M-3「I hate you and I love you」はビートルズみたいな、というよりグループサウンズみないなキャッチーなメロディに乗せて、男女の恋愛関係の力学を歌う。後半ガラっと曲調が変わって優しいメロディになるのも良い。M-4「笑門来福?」は良明氏お得意の陽気なロックナンバー。良明氏の妙な言語感覚も炸裂していて、「そうですか?/そうだよ〜」なんて掛け合い風の歌詞が楽しい。博文氏のM-5「Rainbow Zombie Blues」では、お得意のシニカルな歌詞が展開。「所詮先に死ぬのは俺たちなんだ」なんてフレーズも飛び出す。ここまで前半の5曲はとにかく元気が良くて雰囲気も明るい。


 後半に入ると、徐々にライダーズらしい陰りのある世界が広がってゆく。M-6「Small Box」で穏やかなメロディに乗せて歌われるのは慶一氏らしい孤独。M-7「ケンタウルスの海」は個人的なベスト・トラック。「自由に生きたからって 自由に死ねるわけじゃない」「自由に愛したからって 愛されるとは限らない」という博文氏らしい苦ああああい歌詞に続いて、「波を打ち抜く弓矢は 浮かぶもくずとなって 散って 飛んだ水が 星になる」と信じられないくらいドラマティックなサビが続く。泣いた。これは本当に特別な1曲だ。ホイッスルのイントロから始まるM-8「むすんでひらいて手を打とう」は、4曲目に続いて良明氏らしい曲。「ゆるーく 結んで 楽に 開いて」という良明氏の明るさがアルバムに潤いを与えてるようで嬉しい。M-9「夕暮れのUFO、明け方のJET、真昼のバタフライ」は岡田氏作曲の名曲。M-10「本当におしまいの話」はあまりに慶一氏らしい虚無の世界。あと一歩で「LEFT BANK」に辿り着こうといういう危険な歌。


 で、続くM-11がまた恐ろしい。「パラダイスあたりの信号で」。この曲はヤバい。視界の下方から人生のエンディングクレジットがせりあがってくるんじゃないかという妄想に囚われた。「赤く点滅する 次の自分が見たい」だもんなあ。後半曲調が変わって、ライダーズお得意の男性コーラスで「パラダイスあたりの信号で・・・」と繰り返すのもヤバい。ちなみに、このタイトル、映画マニアなら川島雄三の『洲崎パラダイス 赤信号』を連想せずにはいられないだろう。


 M-12「旅のYOKAN」。4曲目、8曲目に続いて良明氏の曲だけれど、一転して穏やかな曲調の佳曲。「夢ギドラ」や「静岡」など、良明氏はこういう曲も上手い。そして最終曲「6つの来し方行く末」へ。メンバー6人がヴォーカルを歌い継ぐ美しい曲だ。それぞれの個性を盛り込んだ慶一氏の歌詞が素晴らしい。6人の個性的な歌いっぷりも楽しめる。かしぶち氏が「11月にはコートを羽織って」と歌いだした時にはゾクっとした。大人の色気ってのはこういうもんだ。「6つの来し方行く末」にはこんな歌詞がある。


「春も夏も秋冬も いつも僕たちは 仕事をしてきた それでいいんだろうと」


 33年目の男たちの自負が感じられるではないか。そして、正直にこんなことを言い添えるのも忘れていない。「歳を数えたら ここにいるのが解ることもたくさんある 解らないことも 消えて増えていくよ」と。素晴らしい。


Tokyo7

Tokyo7