Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『DON'T TRUST OVER THIRTY』(ムーンライダーズ)


 ムーンライダーズは、クラウン、ジャパン・レコード、RVC、キャニオン・レコードと移籍を繰り返しながら、1986年に活動10周年を迎えた。T.E.N.T/CANYONより同年11月にリリースされたのが『DON'T TRUST OVER THIRTY』。メンバー全員が30歳を超えたところでこのタイトル。ジャケットもヤバい。


 収録曲は、


 M-1.「CLINIKA」(作曲/かしぶち哲郎
 M-2.「9月の海はクラゲの海」(作詞/サエキけんぞう 作曲/岡田徹
 M-3.「超C調」(作詞・作曲/白井良明
 M-4.「だるい人」(作詞/蛭子能収 作曲/E.D MORRISON)
 M-5.「マニアの受難」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-6.「DON'T TRUST ANYONE OVER 30」(作詞/鈴木博文 作曲/E.D MORRISON)
 M-7.「ボクハナク」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-8.「A FROZEN GIRL, A BOY IN LOVE」(作詞/滋田みかよ 作曲/武川雅寛
 M-9.「何だ?この、ユーウツは!!」(作詞/鈴木慶一鈴木博文 作曲/E.D MORRISON)
  (アナログ盤では、M-1〜5がSIDE A、M-6〜9がSIDEB)


 ライダーズ10年目の記念アルバムは、かしぶち氏のポップなインストM-1「CLINIKA」で幕を開ける。(「CLINIKA」ヴォーカル入りヴァージョンはかしぶち氏のベスト『Tetsuroh Kashibuchi SONGBOOK』で聴く事が出来る)。M-2はサエキけんぞう氏の歌詞が素晴らしい「9月の海はクラゲの海」。1995年にはこの曲をフィーチャーしたマキシ・シングル『9月の海はクラゲの海e.p.』もリリースされているほどの人気曲だ。ライダーズのポップ・サイドを代表する曲と言えよう。良明氏の実験曲M-3「超C調」を挟んで、クレイジー・キャッツばりのコミカルなリーマン・ソングM-4「だるい人」へと雪崩れ込む。作詞は漫画家の蛭子能収氏。「出来れば何にもしたくない 金さえあればの40代」って・・・。「ポケットにも入れられない物が好き 戦争になっても持って逃げれない物が好き」と歌うマニア哀歌M-5「マニアの受難」は、後にドキュメンタリー映画のタイトルにもなった。ここまでがアナログ盤のA面。


 アバンギャルド躁状態のA面に対し、B面はグッと憂いが増す。M-6「DON'T TRUST ANYONE OVER 30」は恐らく博文氏作詞の最高傑作ではないか。家族や愛人を残して失踪する男(元のイメージはサム・シェパードの『モーテル・クロニクルズ』や『パリ、テキサス』なのだという)を描いたヘヴィな曲で、最初に聴いてから25年経つ今でも折に触れてこの詩を思い出す。M-7「ボクハナク」は博文氏とカーネーションの直枝政太郎(現政広)氏のデュエット。武川氏による切ないM-8「A FROZEN GIRL, A BOY IN LOVE」(個人的なベスト・トラックだ)。ラストはライダーズ流ハード・ロックM-9「何だ?この、ユーウツは!!」・・・。この歌詞も年々リアルさが増してゆくような気がする。当時精神的に参っていた慶一氏を救ってくれたというケイト・ブッシュとピーター・ゲイブリル(「DON’T GIVE UP」のMTVで抱き合いながら歌う2人)、そして「ガープの世界」(ジョン・アーヴィング)に献辞が捧げられている。


 各曲ともバラバラなのに不思議と統一感があり、ムーンライダーズサウンドとしか言いようの無い響きを聴かせてくれる。10周年の勢いが反映したテンションの高いアルバムだ。


 10周年を記念して12インチシングル、アルバムのリリース、ライブツアー等活発な活動を行なった1986年。ムーンライダーズはそれから約5年の活動休止期間に入る。


DON’T TRUST OVER THIRTY(紙)

DON’T TRUST OVER THIRTY(紙)