Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『Ciao!』(ムーンライダーズ)



「老人が死ぬのは悲劇ではない」 (ロバート・アルトマン今宵、フィッツジェラルド劇場で』より)



 2011年末をもって無期限活動休止を宣言したムーンライダーズ。12月14日には通算21枚目のオリジナル・アルバム『Ciao!』がリリースされた。活動休止前のラスト・アルバム、しかも激動の年であった2011年を締めくくる時期のリリースという事で、どんなサウンドになっているのだろうと不安と期待を胸に聴き始めた。


 収録曲は、


 M-1.「who’s gonna be reborn first?」(作詞・作曲/白井良明
 M-2.「無垢なままで」(作詞・作曲/武川雅寛
 M-3.「ハロー マーニャ小母さん」(作詞/岡田徹鈴木慶一 作曲/岡田徹
 M-4.「Mt.Kx」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-5.「Pain Rain」(作詞・作曲/かしぶち哲郎)  
 M-6.「折れた矢」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-7.「Masque-Rider」(作詞・作曲/白井良明
 M-8.「オカシな救済」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-9.「弱気な不良 Part-2」(作詞・作曲/武川雅寛
 M-10.「主なくとも 梅は咲く ならば(もはや何者でもない)」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-11.「ラスト・ファンファーレ」(作詞・作曲/かしぶち哲郎
 M-12.「蒸気でできたプレイグランド劇場で」(作詞/鈴木慶一 作曲/岡田徹


 唐突だが『今宵、フィッツジェラルド劇場で』という映画をご存知だろうか。アメリカ映画界きってのひねくれ者であり、メジャー/インディペンデントを股に掛けて活躍した偉大なる映画監督ロバート・アルトマンの遺作である。長年続いたカントリー&ウェスタンの公開ラジオ・ショーが最終回を迎え、様々な思いを胸にステージに立つ出演者たちの人生模様が、アルトマンお得意の群像劇スタイルで描かれている。楽屋で番組開始を待つミュージシャンたち、忙しく動き回る番組スタッフなどを流れるように紹介していく冒頭から活気に溢れ、遺作とは思えないくらい全編に渡って明るい雰囲気なのがとても良かった。


 ムーンライダーズと関係ないだろと言われそうだけど、『Ciao!』に「蒸気でできたプレイグランド劇場で」なんて曲が入っているので、ふと思い出してしまったのだ。前作『Tokyo7』で『洲崎パラダイス 赤信号』(川島雄三)を連想させる「パラダイスあたりの信号で」なんてタイトルを使った慶一氏のことだから、あながち的外れな連想ではないような気もする。


 それはさておき『Ciao!』である。最初に聴いて驚いたのは、「ムーンライダーズ」がカタマリとなって音を鳴らしている!という強いインパクトであった。まるでザ・バンドのごとくメンバーが交代でメイン・ヴォーカルを担当し、歌に演奏に各人の個性を発揮しながら、尚且つバンドとして素晴らしい一体感を感じさせるのだ。


 曲は、鈴木慶一氏(M-4、M-10)、岡田徹氏(M-3、M-12)、白井良明氏(M-1、M-7)、かしぶち哲郎氏(M-5、M-11)、武川雅寛氏(M-2、M-9)、鈴木博文氏(M-6、M-8)と、各メンバーの曲がきっかり2曲ずつ収録されている。長年のファンとしては、それぞれの曲に各人得意のメロディー・ラインが聴き取れるけれど、今回はバンド・アンサンブルの迫力が凄いので、ソロ色はほとんど感じられない。こんな生々しい音は現在進行形のバンドにしか絶対に出せないだろう。彼らが活動休止してしまうというのが本当に信じられない。


 80年代には「30歳以上は信じるな」、90年代には「誰が最初に死ぬか?」、ゼロ年代には「所詮先に死ぬのは俺たちなんだ」と歌ったライダーズ。今回はいきなり「誰が最初に甦るか?」とぶちかまし、混沌とした音の渦の中からメンバーが雄たけびを上げる。一転してアコースティックな響きが美しいM-2、2011年が震災の年であった事を刻印するようなM-3へと続く。M-4からM-10までは時にユーモアを交えながら、様々な形で痛みと喪失の風景を描き出す。荘厳なM-11の後、アルバムは軽やかなM-12で幕を閉じる。


 『Ciao!』はライダーズ35年に渡る活動の集大成であろうが、2000年以降のどのアルバムにも似ていない、全く異質なサウンドが高らかに鳴り響いている。アルトマンの『今宵、フィッツジェラルド劇場で』が登場人物の死やラジオ・ショーの終演を描いていながら明るく前向きな映画であったように、『Ciao!』もまた若々しい衝動と驚きに満ちている。「老人が死ぬのは悲劇ではない」とは件の映画の名台詞だけれど、ライダーズもそんな清々しい開き直りをもって次のステップに踏み出そうとしているのではないだろうか。


 アルトマンの傑作・珍作の数々が色褪せずに輝き続けるように、『Ciao!』を始めとするムーンライダーズの音楽はこれからもずっと輝き続けるであろう。素晴らしいアルバムをありがとう。そしてまたいつか新しい曲を聴かせて下さいね。



Ciao!

Ciao!

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今宵、フィッツジェラルド劇場で [DVD]

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