『P.W Babies Paperback』（ムーンライダーズ）

　ムーンライダーズは2004年には自らのバンド名を冠したレーベルMoonriders Recordsを創立する。同レーベルから2005年5月リリースされたアルバムが『P.W Babies Paperback』。ポスト・ウォー・ベイビーズ・ペーパーバック。テーマは「戦後」だよ。ライダーズ史上最も手強いアルバムではないかなあ、これは。

　収録曲は、

　M-1.「Waltz For Postwar.B」（作曲／岡田徹）
　M-2.「Wet Dreamland」（作詞・作曲／鈴木慶一）
　M-3.「スペースエイジのバラッド」（作詞／鈴木慶一・長江優子　作曲／岡田徹）
　M-4.「ヤッホーヤッホーナンマイダ」（作詞／坂田明　作曲／白井良明）
　M-5.「銅線の男」（作詞・作曲／鈴木博文）
　M-6.「Bitter Rose」（作詞／覚和歌子　作曲／岡田徹）
　M-7.「さすらう青春」（作詞・作曲／かしぶち哲郎）
　M-8.「夢ギドラ85'」（作詞・作曲／白井良明）
　M-9.「親愛なるBlack Tie族様、善良なる半魚人より」（作詞・作曲／鈴木慶一）
　M-10.「真実の犬」（作詞／鈴木博文・武川雅寛　作曲／武川雅寛）
　M-11.「ばら線の庭」（作詞・作曲／鈴木博文）
　M-12.「ひとは人間について語る」（作詞・作曲／かしぶち哲郎）
　M-13.「地下道Busker's Waltz」（作詞・作曲／武川雅寛）
　M-14.「Waltzing」（作詞／鈴木慶一　作曲／岡田徹）

　従来のライダーズのイメージ通りのキャッチーな曲はM-3「スペースエイジのバラット」くらいのもので、とっつき難いったらない。歌詞は珍しくノスタルジックだったり、逆に苦いを通り越して諦観の域に達したものもあったりして。確かに日本のロック史上ここまで行き着いたアルバムは絶対に無いと思う。でも最初に聴いた時は、売れないんじゃないかなあこれ、と思った。熱心なライダーズファンのオレですらそう思った。本作の印象が変わったのは、ライヴを見てからだった。

　『P.W Babies Paperback』のツアーは、5/27渋谷AX、6/5恵比寿ガーデンホールで行なわれた。（ライヴの模様は『MOONRIDERS2005』としてDVD化されている）この時は5/27の渋谷AXに行ってきた。前作『Dire Morons TRIBUNE』のライヴは岡田氏が病欠したが、この時はかしぶち氏が病欠。代打はカーネーションの矢部氏。ドラムが若くて元気なのに引っ張られたのかもしれないが、ライブはとても良かった。慶一氏のヴォーカルも安定しており、歌詞も間違えず一安心。古い曲の混ぜ方が心憎くて、アンコールが珍しや「今すぐ君をぶっとばせ」だったり。

　ライヴとアルバムに共通して感じたのは、「凄くオヤジ臭い」ということだった。今まで彼らにつきまとってた少年ぽさ・青春ぽさが全然感じられない。更には「別に判り難くても良いのだ」というある種の開き直りを強く感じた。それはそれで結構な事だと思う。ライヴを経てアルバムをもう一度聴きかえしてみたら、これはこれでありなのだなあと思った。とっつき難いなあと思った歌詞やアレンジも、きっと自分がもう少し歳をとれば理解できるのではないかと思えてきた。実際M-6「Bitter Rose」なんか滲みるもんなあ、最近特に。

　アルバムは短いインスト曲M-1「Waltz For Postwar.B」で始まる。ワルツの調べに乗って、時間はメンバーの中学時代へと遡ってゆく。ライヴで慶一氏が「夢精の歌です」と紹介していたM-2「Wet Dreamland」。宇宙時代の夢を謳うM-3「スペースエイジのバラッド」。M-4「ヤッホーヤッホーナンマイダ」は一転して骨太な反戦ソング。作詞はサックス奏者の坂田明氏。かしぶち氏のM-7「さすらう青春」、M-12「ひとは人間について語る」、博文氏のM-5「銅線の男」、M-11「ばら線の庭」、良明氏のM-8「夢ギドラ85'」、慶一氏のM-9「親愛なるBlack Tie族様、善良なる半魚人より」、岡田氏のM-6「Bitter Rose」、武川氏のM-10「真実の犬」など、ソロ色（というよりもプライベート感）の濃い曲が並ぶ。ビートルズにハマッた中学時代であったり、すれ違いを演じる中年夫婦であったり、月面着陸の時代であったり、サーカスに心ときめかせた少年時代であったり、時間を行ったり来たりする。慶一氏のM-9は、濡れ落ち葉を踏んで転倒しタイムスリップするという曲だ。M-13「地下道Busker's Waltz」、M-14「Waltzing」で再びワルツの調べが流れ、アルバムは幕を閉じる。