Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『MOON OVER the ROSEBUD』(ムーンライダーズ)


 ムーンライダーズが活動30周年を迎えた2006年。上半期はライヴを連続して行い、4月30日には日比谷野音で豪華ゲストを招いての30周年記念ライヴ『vintage moon festival』が開催された。下半期はシングル、アルバムをリリース、年末には30周年記念ライヴの模様とメンバーや関係者へのインタビューで構成された記録映画『マニアの受難』も公開、と活発な活動を行なった。


 同年9月にリリースされたシングル『ゆうがたフレンド(公園にて)』 


ゆうがたフレンド

ゆうがたフレンド


 ライダーズ長年の盟友といえる糸井重里氏が作詞を担当しており、NHKみんなのうた」でもやりそうな(けど絶対にやらない)、友情を歌ったオーソドックスな世界が新鮮。良明氏の穏やかなメロディも素晴らしく、聴く度泣きそうになる名曲だ。

「何ひとつ取り柄もない 力もない 知恵もない ともだちがいてくれる 葬式まで たぶん来てくれる」 ・・・嗚呼。


 同年10月に自らのレーベルMoonriders Recordsよりリリースされた、ムーンライダーズ30年目・19作目のオリジナル・アルバム『MOON OVER the ROSEBUD』。前2作を遥かに凌ぐポップなアルバムとなっており、ライダーズ30周年を締め括るに相応しい傑作だと思う。個人的には、2000年以降のライダーズのアルバムでは最も愛聴している1枚だ。 


 収録曲は、


 M-1.「Cool Dynamo, Right on」(作詞/鈴木慶一 作曲/岡田徹
 M-2.「果実味を残せ!Vieilles Vignesってど〜よ!」(作詞・作曲/白井良明
 M-3.「Rosebud Heights」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-4.「WEATHERMAN」(作詞/鈴木博文 作曲/岡田徹
 M-5.「琥珀色の骨」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-6.「Dance Away」(作詞・作曲/かしぶち哲郎
 M-7.「ワンピースを、Pay Dayに」(作詞/井上奈緒鈴木慶一 作曲/鈴木慶一
 M-8.「Serenade and Sarabande」(作詞・作曲/かしぶち哲郎
 M-9.「馬の背に乗れ」(作詞/鈴木博文 作曲/白井良明
 M-10.「11月の晴れた午後には」(作詞/鈴木博文 作曲/武川雅寛
 M-11.「腐った林檎を食う水夫の歌」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-12.「Vintage Wine Spirits, and Roses」(作詞/鈴木慶一 作曲/岡田徹
 M-13.「When This Grateful War is Ended」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-14.「ゆうがたフレンド(公園にて)DubMix」(作詞/糸井重里 作曲/白井良明 Dub Mix: Izumi "Dub Master X" Miyazaki)


 どの曲も「薔薇」「ハイツ」「航海」といったいくつかの言葉でつながりを持ち、コンセプト・アルバムってほど厳密ではないが、全体が大きな物語のように構成されている。また過去の曲やムーンライダーズと言うバンドへの言及もそこかしこに散りばめられていて、30年目を迎えたバンドならではの奥行きのあるアルバムとなっている。全て慶一氏のヴォーカルで統一感を出し、楽曲は久々に超ポップな名曲が並んでいる。


 M-1「Cool Dynamo, Right on」は何と「ダイナマイトとクールガイ」の続編。他にも「鬼火」等々過去の曲のキーワードが歌詞に散りばめられている。岡田氏の美メロが冴え、タイトな演奏も素晴らしい。最初にこのアルバムを聴いた時、1曲目の「Cool Dynamo, Right on」があまりに素敵な曲なんで妻と顔を見合わせて喜んだのを覚えている。 


 慶一氏のM-11「腐った林檎を食う水夫の歌」、良明氏のM-2「果実味を残せ!Vieilles Vignesってど〜よ!」、かしぶち氏のM-6「Dance Away」など、メンバーの個性がバンド・サウンド上手く噛み合って勢いがあるのが嬉しい。博文氏がM-4「WEATHERMAN」、M-9「馬の背に乗れ」で珍しくユーモラスな歌詞を披露しているのも面白い。


 クライマックスの舞台は海辺のホテル。打ち捨てられた海辺のホテル、人気の無いプール、砂まみれのラウンジ、というイメージはバラードの短編を思い出した。歳の離れたカップルが噛み合わない会話を続けているのか、泥酔した男が過去と現在を行ったり来たりしながら独白を続けているのか、はたまた『シャイニング』みたいに幽霊たちがパーティを開いているのか・・・。M-12「Vintage Wine Spirits, and Roses」の「不幸はずっと続いてもいいんだ/心の傷は塞がらなくてもいいんだ/小さな幸せなら手にしなくてもいいんだ」って歌詞は凄すぎる。M-13「When This Grateful War is Ended」の「色んな男いるけれど/俺はマシな方だろ? どうだい?」ってのもまた・・・。M-13の最後に「プールの方が騒々しいな・・・」とM-12の後へと続いて行く終り方はまるで映画のごとき余韻を感じさせる。


 アルバムの最後には、Bonus Tracks のような扱いで「ゆうがたフレンド(公園にて)」のリミックスが収録されている。死ぬ間際に、遠く昔の友達を思い出しているような不思議な印象を覚えた。(そんな風に思ったのオレだけ?) さておき、オトナの為のロックとは正に本作の事ではないだろうか。


 前2作はファン以外には少々とっつき難い感じであったが、本作なら一見さんでも大丈夫だ。初めて聴くライダーズのアルバムが『MOON OVER the ROSEBUD』で、ここからファンになったという人がいても不思議ではない。そんな親しみやすさと深みを兼ね備えた素晴らしいアルバムだと思う。