Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

1995年の2枚のミニ・アルバム(ムーンライダーズ)


 1995年、ムーンライダーズは翌年の20周年を前にレコード会社をFun Houseに移籍。3月には第一弾としてカヴァー中心のミニアルバム『Beautiful Young Generation HIGH SCHOOL BASEMENT 1』をリリースした。宣伝コピーに曰く「回想モードのムーンライダーズVol.1 ハイスクール・バンドにリセット」。


 収録曲は、


 M-1.「名犬ロンドン物語」(作者不詳 編曲/ムーンライダーズ
 M-2.「赤色エレジー」(作詞/あがた森魚 作曲/八州秀章)
 M-3.「一人ぼっちの二人」(作詞/永六輔 作曲/中村八大)
 M-4.「大寒町」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-5.「LOVE ME TONIGHT」(作詞・作曲/PEACE-PILAT-PANZER-MASON 日本語詞/鈴木慶一
 M-6.「くれないホテル」(作詞/橋本淳 作曲/筒美京平
 M-7.「卒業」(作詞/能吉利人 作曲/長谷川きよし


 カヴァー・アルバムを作ろうと言う企画に、レコード会社からは様々な洋楽カヴァーのプレゼンがあったそうだが、出来上がったのはいかにも彼ららしいひねった選曲となっている。M-1「名犬ロンドン物語」は海外TVドラマのテーマ曲とのことで、ポーグスのごときやけっぱちで痛快な演奏が楽しい。あがた森魚のヒット曲M-2「赤色エレジー」は、オリジナルの叙情性はどこへやら、混沌としたサウンドに変貌している。M-3「一人ぼっちの二人」は、坂本九の曲。勅使河原宏監督の短編『白い朝』に使われていたっけ。数字つながりでニルソンの「ワン」を思い出す。関係無いけど。M-4はライヴではお馴染みのライダーズ・クラシック「大寒町」。スタジオ録音は今回が初収録で、ザ・バンド風味の男らしい演奏と歌が素晴らしい。M-5はトム・ジョーンズ「LOVE ME TONIGHT」のカヴァー。この慶一氏による日本語詩には爆笑。サビは「愛か、仕事か?」だもんなあ。バンド内ニュー・ウェーヴ・ユニット「アートポート」(博文氏・かしぶち氏・良明氏)のスピード感溢れる演奏も聴き所。M-6「くれないホテル」のオリジナルは西田佐知子の歌謡曲。オリジナルもいい曲だけれど、ライダーズ・ヴァージョンは歌詞の通り深い霧の中から聞こえてくる様なアレンジが施されている。M-7「卒業」は盲目のフォーク・シンガー長谷川きよしの曲。本ミニ・アルバムのタイトル通り、回想モードを締めくくるに相応しい選曲だ。


 全編やけに元気がいい。それに楽しそうだ。どの曲も面白いけれど、個人的なベスト・トラックはM-6「くれないホテル」かな。オリジナルを聴いてみたくて、西田佐知子のベスト盤買っちゃったもんなあ。


 ちなみに、ライダーズによる他のアーティストのカヴァーはほとんどない。何しろディスコ全盛の頃にレコード会社から「ジンギスカン」のカヴァーを薦められて断ったという人たちだ。スタジオ・レコーディングされた音源は「トラベシア」(ミルトン・ナシメント)、東芝EMIから出たビートルズのカヴァー集に収録された「YER BLUES」、ジョージ・ハリスンのトリビュート・アルバムに収録された「I NEED YOU」ほか、数えるほどしかない。




 同年6月にはミニ・アルバム第2弾『Le Cafe de la Plage』をリリース。こちらはレゲエ・アレンジのセルフ・カヴァー・アルバムという異色作。ジャケットはビーチ・ボーイズよろしくサーフボードを抱えたメンバーたち。描き割りの背景というところが何とも彼ららしい。当時のインタビューによると、ジャック・タチの映画『ぼくの伯父さんの休暇』あたりをイメージしていたようだが・・・。


 収録曲は、


 M-1.「ボクハナク」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-2.「真夜中の玉子」(作詞/鈴木博文 作曲/鈴木慶一鈴木博文
 M-3.「青空のマリー」(作詞/佐伯健三・ムーンライダーズ 作曲/白井良明
 M-4.「G.o.a.P.(急いでピクニックへ行こう)」(作詞/鈴木慶一 作曲/岡田徹
 M-5.「9月の海はクラゲの海」(作詞/サエキけんぞう 作曲/岡田徹
 M-6.「さよならは夜明けの夢に」(作詞/鈴木博文 作曲/岡田徹
 M-7.「くれない埠頭」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-8.「海の家 (MINI ALBUM MIX)」(作詞・作曲/ムーンライダーズ


 M-8「海の家」はシングル・カットされ、POLA「ESTINA」のCMに使用された。かなり地味な曲で、何でこうも売れ無さそうな曲をシングルにするかなーと思ったものだ。他は過去のアルバムから比較的ポップな曲がセレクトされているけれど、いわゆるビーチ向けのお気楽なアルバムにはなっていない。M-6「さよならは夜明けの夢に」の冷え冷えとしたアレンジがあまりに凄すぎるからであろうか、聴いていると切ないを通り越して不安な気持ちになってしまうのであった。そういう意味では、彼らの体質を良く表わした企画盤と言えるかもしれない。



B.Y.G. High School B1

B.Y.G. High School B1

Le Cafe de la Plage

Le Cafe de la Plage