Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『Bizarre Music For You』(ムーンライダーズ)


 1996年には20周年を迎えたムーンライダーズ。アニバーサリー・ライヴやBOXセット『ムーンライダーズ・コンプリート・コレクション』のリリースなど活発な活動を展開した。6月に日比谷野外音楽堂で行なわれた20周年記念コンサートの模様は2枚組ライヴ・アルバム『a touch of fullmoon shows in the night』としてリリースされている。


 12月にはFun Houseからアルバム『Bizarre Music For You』をリリース。20周年記念アルバムということで、全体にポップで勢いのあるアルバムに仕上がっている。矢野顕子矢野誠高橋幸宏細野晴臣、直枝政太郎、松尾清憲菊地成孔らゲスト・ミュージシャンも多数参加。


 収録曲は、


 M-1.「BEATITUDE (album take)」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-2.「愛はただ乱調にある」(作詞/鈴木慶一 作曲/鈴木慶一岡田徹
 M-3.「春のナヌーク」(作詞・作曲/白井良明
 M-4.「君に青空をあげよう」(作詞/サエキけんぞう 作曲/岡田徹白井良明
 M-5.「Happy Life」(作詞/鈴木慶一 作曲/白井良明
 M-6.「ニットキャップマン外伝」(作詞/鈴木博文 作曲/白井良明岡田徹
 M-7.「ニットキャップマン (album take)」(作詞/糸井重里 作曲/岡田徹
 M-8.「僕は負けそうだ」(作詞/鈴木博文 作曲/鈴木博文白井良明
 M-9.「オー何テュー事ナンダロウ」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-10.「ガールハント」(作詞・作曲/かしぶち哲郎
 M-11.「狂犬」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-12.「風のロボット」(作詞/滋田美佳世 作曲/武川雅寛
 M-13.「スプーン一杯のクリスマス」(作詞/鈴木博文 作曲/かしぶち哲郎
 M-14.「みんなはライヴァル」(作詞/鈴木慶一 作曲/岡田徹


 アルバム・ジャケットは犬だ。ライダーズには犬をモチーフにした曲が多い。「ドッグ・ソング」「犬にインタビュー」「犬の帰宅」「名犬ロンドン物語」「黒いシェパード」「真実の犬」「「渋谷狩猟日記」「Sweet Bitter Candy」・・・曲名や歌詞の中に、犬が頻繁に登場する。翌1997年にリリースされた20周年記念CD-ROM『Damn! Moonriders』にも犬がいっぱい出てきたっけ。本作にも新たな犬ソングが収録されている。


 M-1「BEATITUDE」はライダーズにしては珍しくアップテンポで男っぽい曲。イントロがマツダのCM(「マツダに乗りにいこう!」というやつ)で使用された。確か元はTHE BEATNIKSのライヴで演奏された曲だったと思う。「BEATNIK音頭」とかいって紹介されていたような。歌詞に「カルマにまみれて」なんて仏教用語が出てくるあたりもビートっぽい。


 シングル・カットされたM-7「ニットキャップマン」は本アルバムのハイライトと呼べる曲だ。作詞はライダーズに縁の深い糸井重里氏。「スカンピン」以来のルンペン・ソング、しかも犬(雑種ドッグ)も登場する。岡田氏のユーモラスな曲も絶好調で、思わず「おおフジオさん〜」と口ずさみたくなる。ライダーズ・ファンの岩井俊二監督によってPVが製作され、メンバーも浮浪者スタイルで出演。同PVを発展させたショート・フィルム『毛ぼうし』も製作された。M-6「ニットキャップマン外伝」は主人公の両親と少年時代を描いた曲で、博文氏の詩が素晴らしい。何度聴いても泣きそうになってしまうのだ。


 20周年を迎えたバンドの葛藤と意思表示を歌ったM-9「オー何テュー事ナンダロウ」。かつての名曲を参照した「夢が消せる機械が欲しい」なんて歌詞も登場する。イントロの響きやコーラスなど、サウンドはいかにもライダーズらしい。慶一氏が佐野元春氏の番組に出演した時、元春氏がチョイスしたのはこの曲だった。本気でビート詩人を意識している数少ない日本のミュージシャンである元春氏と慶一氏の邂逅はとてもスリリングであった。ちなみに、富田ラボのアルバム「Shipahead」には作詞/鈴木慶一+ヴォーカル/佐野元春という珍しいコラボレーション曲「ペドロ 消防士と潜水夫」が収録されているのでファンは要チェック。


 慶一氏+岡田氏のM-2「愛はただ乱調にある」、サエキけんぞう氏が再び「青空」を描くM-4「君に青空をあげよう」も素晴らしくポップ。良明氏の伸びやかなギターが堪能できるM-3「春のナヌーク」あり、皮肉でユーモラスな歌詞が慶一氏らしいM-5「Happy Life」あり、直枝氏(カーネーション)のゲスト・ヴォーカルが熱いM-8「僕は負けそうだ」あり、かしぶち氏のゴージャスなラウンジ・ソングM-10「ガールハント」あり、博文氏の寂寥感漂うM-11「狂犬」あり、武川氏の爽やかなM-12「風のロボット」あり、クリスマス・ソングM-13「スプーン一杯のクリスマス」あり・・・とバラエティーに富んだ楽曲が楽しめるアルバムだ。ラストにはハリー細野氏登場のお遊びも。M-14「みんなはライヴァル」はファンからのお祝いメッセージが織り込まれた20周年のアニヴァーサリー・ソング。みんなはライヴァル、というのがこの人たちらしいなと思う。


 この後ライダーズは、1995〜1996年のシングル及びアルバムの中から選曲されたベストアルバム『短くも美しく燃え』をリリースしてFUN HOUSEより離脱。次はKi/oonレコードへと移籍する。流浪の民だよ本当に。



Bizarre Music For You

Bizarre Music For You

a touch of fullmoon shows in the night

a touch of fullmoon shows in the night