Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『Here we go'round HQD』(ムーンライダーズ)

 ネットでの音楽配信が行なわれるようになったごく初期の頃、新しもの好きの彼ららしくムーンライダーズは早速これを実施した。99年に新曲「Pissin' till I die」(作詞/鈴木博文鈴木慶一 作曲/白井良明鈴木慶一)と「pissism」(作詞/鈴木慶一 作曲/岡田徹鈴木慶一)をネットで無料配信。いきなり「死ぬまで小便し続ける」「小便主義」ってのが凄い。まだネット配信が一般的ではなかった頃の実験的な試みであったのだとは思うが、あれには困惑させられたなあ。「pissism」は『イスタンブール・マンボ』以来のエキゾチックなナンバー。「Pissin' till I die」はライダーズにしては珍しいメロウなヒップホップ調の曲で、慶一のオヤジ臭いラップが聴ける。後に歌詞とアレンジを変更して「Kissin' you till I die」としてシングル発売された。個人的には「Kissin'」よりもこちらの「Pissin'」の方が好きだ。


 2008年の暮れから、ムーンライダーズは再びネットによる新曲配信を行なった。翌2009年5月にかけて6ヶ月に渡って毎月ネット配信で新曲を発表するという企画で、新曲は各メンバーが1曲ずつ担当。12月『Tokyo,Round and Round』(岡田)、1月『恋はアマリリス』(白井)、2月『You & Us』(慶一)、3月『Tokyo Navi』(武川)、4月『三日月の翼』(博文)、5月『Come Up』(かしぶち)と続いた。これらの曲は通販とライヴ会場のみで販売された限定ディスク『Here we go'round HQD』としてリリースされた。


 収録曲は、


 M-1『Tokyo,Round and Round』(作詞/鈴木慶一 作曲/岡田徹
 M-2『恋はアマリリス』(作詞・作曲/白井良明
 M-3『You & Us』(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-4『Tokyo Navi』(作詞/鈴木博文 作曲/武川雅寛
 M-5『三日月の翼』(作詞・作曲/鈴木博文
 M-6『Come Up』(作詞・作曲/かしぶち哲郎


 M-1「Tokyo,Round and Round」は、日本語のロック黎明期からTokyoで活動してきた生き残りの決意表明にも取れるような歌詞、おもちゃっぽいサウンドが面白い。良明氏のメロウなM-2「恋はアマリリス」、いかにも慶一氏らしい歌詞の「You & Us」を挟んで、再びタイトルに東京が登場する武川氏のM-4「Tokyo Navi」へと続く。「Tokyo Navi」は彼女と東京を車で流すというストレートな内容。ライダーズお得意の男性コーラスから始まり、くじら氏のフィドル演奏、岡田氏のアコーディオン、博文氏のブルースハープが楽しめる愉快な曲だ。M-5「三日月の翼」は割にストレートなフォークロック。とっても博文氏らしい曲だと思う。トリはかしぶち氏のM-6「Come Up」。新曲配信企画で個人的なベスト・トラックはこれ。ライダーズでは初めて聴いたような気がするお洒落なスカ・サウンド。こんな曲もやるのかとびっくりした。口笛が入るところがたまらなく好きなんだよなあ。この曲でも歌詞にTokyoが織り込まれ、次回作『Tokyo7』を予告している。


 この6曲は基本ソロ曲なのに、バンドとしての一体感もきちんと感じられるところがとても好きだった。しかもポップな曲ばかりだったので、是非通常盤でもリリースして欲しいと思う。


kissin’you till I die/pissism a go go

kissin’you till I die/pissism a go go