Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『月面讃歌』『dis-covered』(ムーンライダーズ)


 ムーンライダーズは、1998年4月に新宿・日清パワーステーションでレコード会社移籍会見&ライヴを行った。この席ではKi/oonレコードへの移籍と、レコーディング中の新譜は外部プロデューサー制であり、作詞にも多数ゲストを迎えているという事が発表された。ちなみに、この日のライヴはDVD『月面讃画・月面サマーツアー1998』で見ることが出来る。皆黒のスーツでキメてカッコ良かったなあ。


 Ki/oonレコードから1998年7月にリリースされたアルバムが『月面讃歌』。移籍会見で述べられていた通り、メンバーの演奏した楽曲を若手のミュージシャンに託すという企画で、結果アレンジががらりと変わっていたり、演奏が差し替えになっていたりと大胆な再構築が行われている。それでも、どこをどう聴いても「ムーンライダーズ」というサウンドになっているのが面白い。結局、曲そのものが良いということなのだろうね。メンバーの生演奏が少ないのが残念だが、アルバムとしては抜群にポップな仕上がりである。


 収録曲は、


 M-1.「Sweet Bitter Candy」(作詞/鈴木慶一白井良明 作曲/白井良明
 M-2.「幸せの場所」(作詞/原田知世 作曲/岡田徹) 
 M-3.「彼女はプレイガール」(作詞/サエキけんぞう 作曲/鈴木慶一
 M-4.「月曜の朝には終わるとるに足らない夢」(作詞/鈴木慶一 作曲/白井良明) 
 M-5.「窓からの景色」(作詞/かしぶち哲郎 作曲/武川雅寛) 
 M-6.「君には宇宙船がある」(作詞・作曲/かしぶち哲郎) 
 M-7.「海辺のベンチ、鳥と夕陽」(作詞・作曲/鈴木博文) 
 M-8.「Lost time(ロスタイム)」(作詞/BIKKE 作曲/鈴木慶一) 
 M-9.「ぼくは幸せだった」(作詞・作曲/鈴木博文) 
 M-10.「服を脱いで、僕のために」(作詞/鈴木博文 作曲/かしぶち哲郎) 
 M-11.「月面讃歌」(作曲/岡田徹) 
 M-12.「恋人が眠ったあとに唄う歌」(作詞/曽我部恵一 作曲/鈴木慶一) 


 M-1「Sweet Bitter Candy」は根岸孝旨 (Dr.StrangeLove)プロデュース。バーズみたいな泣きのギターと「♪ぼくは犬じゃなくて、誰にも気づかれず溶ける雪だ」という歌詞も切ない三角関係の歌。演奏はほとんどDr.StrangeLoveに差し替えられているようだ。奥田民生をゲスト・ヴォーカルに迎えた別ヴァージョンでシングル・カットされた。後述のライダーズ演奏ヴァージョンと比べるとより青春ぽいというか、若々しい印象だ。「Sweet Bitter Candy」はライヴでも定番となり、『月面讃歌』を代表するトラックだ。


 M-2「幸せの場所」は大橋 "pate" 信行+高野勲プロデュース。作詞は何と原田知世。「男らしさはどこにあるだろう?強くなるってどんな人だろう?」ってライダーズのメンバーからは出てこないであろう詩がとても新鮮。曲もいい。M-3「彼女はプレイガール」はアコーディオン奏者のcobaプロデュース。作詞はサエキけんぞう。ラウンジ調の華やかな曲。M-4「月曜の朝には終わるとるに足らない夢」は一転してハードな1曲。プロデュースはASA-CHANGで、演奏は全てD.M.B.Qに差し替えられている。「♪どうすれば明るくはしゃいで生きてけるんだろう」という中年グランジロック。歌詞も演奏も強力だ。Goh HotodaプロデュースのM-5「窓からの景色」、Ya・to・i (岡田 徹、山本精一他)プロデュースのM-6「君には宇宙船がある」は透明感のあるポップ・ソング。Alex Gray + Neil Simons によるM-7「海辺のベンチ、鳥と夕陽」は移籍会見のライヴでも演奏されたトラッド調の曲。個人的なベスト・トラックはこれです。Tokyo No.1 Soul SetBIKKE 作詞のM-8「Lost time(ロスタイム)」は高野寛、M-9「ぼくは幸せだった」はテイ・トウワ、M-10「服を脱いで、僕のために」は真心ブラザーズ桜井秀俊曽我部恵一氏作詞のM-12「恋人が眠ったあとに唄う歌」は斉藤和義、と若手の実力派アーティストが腕を振るっている。ドリーミーなインスト曲M-11「月面讃歌」の終りに入っているコーラスは、ライヴの観客のコーラスを録音したもの。もしかしてオレの声も入ってるかも・・・と思うと何だか嬉しい。


 本作のジャケットは白地に赤の月マークと素っ気無いものだけど、インナーのスチールは凝りに凝っている。全員宇宙服(医療用スーツらしい)のメンバーたちが月面探索しているというもの。何故かメンバーのクレジットがローマ字表記の略称なのが気になるが・・・。



 本作からは、「恋人が眠ったあとに唄う歌」(アルバムとは別ヴァージョン。カップリングは「酔いどれダンスミュージック」再演)、「Sweet Bitter Candy -秋〜冬-」featuring 奥田民生カップリングは「月夜のドライブ」再演)、とシングルを連発。さらにはライヴDVD『月面讃画・月面サマーツアー1998』もリリースされるなど、Ki/oonレコードへの移籍で活発なプロモーションが展開された。ファンとしても盛り上がったのであるが・・・。Ki/oonでのアルバムは『月面讃歌』1枚だけに終わった。彼らは翌1999年にはワーナーミュージック・ジャパンのDREAM MACHINEレーベルに移籍してしまうのだった。ああ、流浪の民よ。




 そして、DREAM MACHINEから1999年11月にリリースされた『ディスカヴァード dis-covered』。これは『月面讃歌』のオリジナル盤。まずメンバーの演奏によるオリジナル盤が出て、その後リミックス盤が出る、というのが普通だと思うのだが・・・。シングル・カットされた「恋人が眠ったあとに唄う歌」を除く11曲と、Bonus Trackとして「海辺のベンチ、鳥と夕陽」「恋人が眠ったあとに唄う歌」の別ヴァージョンが追加収録されている。


 『月面讃歌』はあれはあれでポップで楽しいアルバムであったけれど、やっぱり彼らの演奏がたっぷりと楽しめる『ディスカヴァード dis-covered』の方がいいなあと思う。ライダーズ演奏ヴァージョンの「Sweet Bitter Candy」「月曜の朝には終わるとるに足らない夢」は大好き。せっかくだから、CD『月面讃歌』+『dis-covered』+デモ音源集、DVD『月面賛画』のスペシャルBOX-SETとか出してくれないかなあ。



dis-covered

dis-covered