Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『マザー MOTHER -Original Sound Track-』(鈴木慶一)

MOTHER

MOTHER


 鈴木慶一氏はムーンライダーズと並行してCM・映画・ゲーム等のサントラ仕事も数多く手掛けている。主なサントラ関連アルバムは、ゲーム『マザー MOTHER』(1989年)、映画『chicken heart』(2002年)、『東京ゴッドファーザーズ』(2003年)、『座頭市』(2003年)、『アウトレイジ』(2010年)、『ゲゲゲの女房』(2010年)等がある。サントラ仕事のベスト盤『Music for Films and Games』(2010年)、CM音源を集めた『鈴木慶一CM WORKS ON・アソシエイツ・イヤーズ』(2007年)等もリリースされている。そんな中で、まず注目するべき作品は『マザー MOTHER』だ。


 ムーンライダーズは1986年にアルバム『DON'T TRUST OVER THIRTY』をリリースし、10周年記念のライヴなどを行なった後、しばらく活動を休止した。バンドの休止期間には各メンバーがソロ活動や他アーティストのプロデュース等を行なっていた。慶一氏は任天堂ファミコンゲームソフト『マザー』に音楽を提供し、アルバムとしてリリース(1989年8月)した。糸井重里原作による『マザー』はシリーズ化され、慶一氏は1と2の音楽を担当している。『マザー』は人気ゲームとしてヒットを飛ばし、音楽もとても評判が高い。鈴木慶一ムーンライダーズの名前を『マザー』で知ったという若いファンも多数いるようだ。


 収録曲は、


 M-1「Pollyanna (I believe In You)」(作詞/Linda Hennrick 作曲/鈴木慶一) 
 M-2「Bein' Friends」(作詞/Linda Hennrick 作曲/鈴木慶一) 
 M-3「The Paradise Line」(作詞/Linda Hennrick 作曲/鈴木慶一) 
 M-4「Magicant」(作曲/田中宏和
 M-5「Wisdom Of The World」(作詞/Linda Hennrick 作曲/鈴木慶一) 
 M-6「Flying Man」(作詞/Linda Hennrick 作曲/鈴木慶一) 
 M-7「Snow Man」(作曲/鈴木慶一田中宏和
 M-8「All That I Needed (Was You)」(作詞/Linda Hennrick 作曲/鈴木慶一) 
 M-9「Fallin' Love, and」(作曲/田中宏和
 M-10「Eight Melodies」(作詞/Linda Hennrick 作曲/鈴木慶一田中宏和) 
 M-11「The World Of MOTHER」(作曲/鈴木慶一田中宏和


 ヴォーカルとしてCatherine Warwick(M-1、2、5)、St.Paul's Cathedinal Choir(M-10)、Louis Philippe(M-6)他、編曲にDavid Bedford(M-5)、Michael Nyman(M-10)ら海外のミュージシャンを迎え、ゴージャスなサウンドを披露。あらかじめストーリーやキャラクターが決まっているゲームのサントラという制約があったからであろうか、ムーンライダーズの混沌としたアルバムとは違って随分スッキリとまとまっている。慶一氏の美メロが存分に楽しめる痛快なアルバムに仕上がっている。ここまで一点の曇りも無いポップさは『火の玉ボーイ』以来ではないだろうか。今聴き返してみても、実にふっ切れた名盤だなあと思う。M-11にはゲーム用の音源が編集された組曲も収録されていて、ゲーム・ファンも楽しめる内容となっている。


 個人的なベスト・トラックは、ルイ・フィリップとのデュエット曲M-6「Flying Man」。メインテーマのM-10「Eight Melodies」は、小学校の音楽の教科書に掲載されたというから驚きだ。それだけ普遍的な美メロであることが証明されたと言う事か。


 先ごろリリースされたデモ音源集『THE LOST SUZUKI TAPES Vol.2』には『マザー』のデモ・トラックが数曲収録されているのでマニアは要チェックだ。