Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『殺人者の空 (山野浩一傑作選2)』

殺人者の空 (山野浩一傑作選?) (創元SF文庫)

殺人者の空 (山野浩一傑作選?) (創元SF文庫)


 伝説のSF作家・山野浩一氏の短編集第二巻『殺人者の空』読む。第一巻『鳥はいまどこを飛ぶか』を読んだら、自分のアタマの中を覗きこまれてるような妙なフィット感があったので、二巻目も迷わず手に取ってみた。


 謎の大型道路の向こう側にどうしても渡れず道に迷う主人公を描く「メシメリ街道」。どこまでも直進する街道の描写や、走行したままで燃料や食料を補給する様子をきちんと描いているのが面白い。タイムトラベルもの「開放時間」は人類の進化まで展開する壮大な作品。作家志望の男と超能力者の女性との逢瀬を描く「闇に星々」は、そのまま映像化出来そうなエンターティンメント。人々が忽然と消えて行く終末もの「Tと失踪者たち」は、黒沢清の『回路』を思わせる終末感がたまらない。世俗を捨て、森と同化しようとする男を描く「森の人々」。オチの一文が効いている。自殺した友人が構築した「街」の謎を解く「φ(ファイ)」。設定が把握し辛くて、これが一番の難物かも。大学部自治会での内ゲバで、対立する派閥の内通者を殺してしまったが、被害者とされる男は存在しなかった・・・という表題作「殺人者の空」。安部公房調の不条理ものかと思いきや、まさかの展開を見せる終盤には度肝抜かれた。ニューウェーヴSFのメインテーマをタイトルにしてしまったような「内宇宙の銀河」。第一巻なら「X電車で行こう」、第二巻の最高作はこの「内宇宙の銀河」ではないかなあ。「ザ・クライム」は第一巻の「霧の中の人々」に続く登山もの。街でも、森でも、山でも、人は道に迷うのだ。


 第一巻では「虹の彼女」を読んで「これはハマり過ぎてヤバいなあ」と胸騒ぎがしたものだが、今回は「Tと失踪者たち」と「内宇宙の銀河」だった。特に「内宇宙の銀河」は、「ある日、私は道端にうずくまることを覚えてしまった。」という書き出しからしてヤバい。何が「ヤバい」のか、極めて個人的な感触なので(だからこそ余計にヤバい感じがするのか?)、上手く説明できないのが歯痒いけれど。うずくまり身体を丸めた人々がそのまま縮んで行くという奇病の話で、最後は・・・。解説で山野氏自身が「この作品を理解して楽しめるのもやはりSF読者だけ」と述べていたけれど、なるほどSF読者なら奇抜な設定やイメージの飛躍をすんなり飲みこめるのかなあと思う。自分はそんなにマニアックなSF読者ではないけれど、「内宇宙の銀河」は(そして山野氏の短編群は)、どれも何の違和感も無く楽しめた。長編も読んでみたいなあと思う。