Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『Everybody's in Working Class』(THE SUZUKI)


 鈴木慶一氏のソロ・アルバムを振り返っております。「ヘイト船長三部作」の前に、慶一・博文の鈴木兄弟によるユニット「THE SUZUKI」について書き記しておきたい。兄弟ユニットということで、てっきり兄弟で弾き語るのかと思っていたら、ちゃんとしたバンド体制で、しかも目指したのは「パブロック」なのだという。


 The SUZUKIは1994年リリースのマキシ・シングル『meets GREAT SKIFFLE AUTREY』でデビュー。



 収録曲は、


 M-1.「ROMEO,JULIET & FRANKENSTEIN」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-2.「WORKING CLASS ROAD」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-3.「LORENA」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-4.「A BLUE COLORED WOMAN」(作詞・作曲/鈴木博文


 収録された曲はThe SUZUKIの4曲+ボーナストラック12曲という変則的なもの。ボーナストラックは鈴木博文のソロ曲の他、青山陽一カーネーション、浜田理恵、青木孝明らMETROTRONレーベルのカタログ的なものとなっている。


 THE SUZUKI名義の4曲は最初のライヴでも披露していたが、音数の少ないもっさりした感じの曲で、成る程ロンドンならぬトーキョー・羽田の「パブロック」か。中では鈴木慶一氏のM-1『ROMEO,JULIET&FRANKENSTEIN』が好きだ。曲もキュートだし詞がまたユーモラス/リアルだ。「セガのビルの裏に往んでたロメオ 今頃どこにいるんだろう/アカイで働くはずのジュリエット 14になる前に消えたろう/変わらないのは空の広さで 地図はまるでフランケンシュタイン」「盗んで来たドラム缶にドクロ 知らずに遊んでたろう 運河に魚が浮かんでたろう 知らずに釣りしてたろう/この街は夜に 誰か必ず血を流して 朝起きると頬を縫われていたんだ」アメリカ版阿部定事件を題材にしたM-3「LORENA」は、何だかGSみたいな演奏が楽しい。M-2、M-4は今どき博文氏にしか書けないであろう。ファースト・アルバムに引き継がれる世界観が提示されている。


 翌1995年リリースのセカンド・マキシ・シングルがTHE SUZUKI ’95』



 収録曲は、


 M-1.「高架線上の魔人達」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-2.「Romeo, Juliet & Frankenstein II」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-3.「CICADA」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-4.「悲しい午後」(作詞・作曲/鈴木博文


 一番驚いたのはM-2「Romeo, Juliet & Frankenstein II」。これは同窓会に出席した中年男を描いた曲だ。こういうアプローチはライダーズでは絶対にやらなかったことだ。最初聴いた時はショック過ぎてあまり楽しめなかったけれど、今では大好きな曲。聴けばきくほど味わい深い。M-3「CICADA」はさらにその続篇みたいな曲で、「サラダボウル」「土手の向こうに」「蝙蝠」といった風に過去の曲のキーワードが盛り込まれている。M-1「高架線上の魔人達」は、このユニットの最高の曲ではないかなあ。


 いよいよリリースされたファースト・アルバムが『Everybody's in Working Class』(1997年)だ。既発のシングル曲(M-4、M-7、M-10、M-11)、新曲、他にライヴ音源を盛り込んだ全13曲。宣伝コピーは「この世はすべて労働者階級」。アルバム・コンセプトを具現化したモノクロのジャケットは格好いいけれど、どことなくリアル・スーパーマリオ・ブラザーズといった趣もある。


 収録曲は、


 M-1.「BARRY AND THE COAL CRACKERS」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-2.「朝日のない街 (We're Gotta Get Out Of This Place)」(作詞・作曲/Mann-Well 日本語詞/鈴木慶一
 M-3.「TRACKER(探索者)」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-4.「A BLUE COLORED WOMAN」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-5.「燃えつきた家」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-6.「IRON RAIN」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-7.「ROMEO,JULIET & FRANKENSTEIN I」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-8.「NIGHT WALKER」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-9.「VICTORIA」(作詞・作曲/R.Davies 日本語詞/鈴木慶一
 M-10.「高架線上の魔人達」(作詞・作曲/鈴木博文
 M-11.「ROMEO,JULIET & FRANKENSTEIN II」(作詞・作曲/鈴木慶一
 M-12.「I DON'T WANT TO TALK ABOUT IT(もう話したくない)」(作詞・作曲/D.Whitten 日本語詞/鈴木慶一
 M-13.「BACKSTAGE PASS」(作詞・作曲/鈴木慶一


 新曲M-1「BARRY AND THE COAL CRACKERS」、M-13「BACKSTAGE PASS」は慶一氏の音楽活動にまつわる自伝的内容。慶一氏のM-5「燃えつきた家」、博文氏のM-3「TRACKER(探索者)」、M-6「IRON RAIN」、M-8「NIGHT WALKER」と、どれも地に足が着いた感じと言うか、詩がいい、曲がいい、シンプルな演奏がいい、と文句ない仕上がり。特に歌詞の充実ぶりは素晴らしいなあと思う。どの曲にも、必ず心に突き刺さるフレーズが含まれている。慶一氏の曲はムーンライダーズTHE BEATNIKSとは一味違ったアプローチがとても興味深い。博文氏の曲はライダーズでもソロでもあんまり変わらないけど(マイペースな人だ・・・)。


 ライヴ音源は、慶一氏による日本語詩の洋楽カヴァー・シリーズ。アニマルズ(M-2)、キンクス(M-9)、クレイジー・ホース(M-12)がそれぞれ面白い日本語詩で再演されている。ムーンライダーズでの「Love Me Tonight」も面白かったし、慶一氏はこういうのも上手いなあ。キンクスの「 Victoria」が「ビクトリ屋」という廻船問屋になってしまった江戸っ子ヴァージョンには笑った。クレイジー・ホースの「I Don't Want TO Talk About It(もう話したくない)」はスタンダード・ナンバーと見紛うばかりの素晴らしさ。


 THE SUZUKIは一度きりのユニットなのかなあと思っていたら、その後ライヴ盤『The SUZUKI meets 栗コーダーカルテット』(1998年)、『The Suzuki Preservation Society-Live at BOXX』(2006年)をリリースするなど継続的な活動を続けている。ムーンライダーズ活動休止に伴い、今後どのような動きを見せるのか注目したい。THE SUZUKIでのニュー・アルバムも期待したいところ。



The SUZUKI meets 栗コーダーカルテット

The SUZUKI meets 栗コーダーカルテット