Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

最近読んだ映画本

Running Pictures―伊藤計劃映画時評集〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

Running Pictures―伊藤計劃映画時評集〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)


『Running Pictures』『Cinematrix』(伊藤計劃


 故伊藤計劃氏による2冊の映画評論集『Running Pictures 伊藤計劃映画時評集1』『Cinematrix 伊藤計劃映画時評集2』。映画時評集、と銘打たれているからして、過去の名画について語るのではなくて、リアルタイムで見た封切作品についての文章が綴られている。巻頭文には「これは映画批評じゃなくて映画の紹介」であり、「これを読んでくれている人を映画館へ誘導すること」が目的であると記されている。


 本書で扱われた1990年代の終わりから2000年代初頭といえば、個人的にも鑑賞(かつ映画館で鑑賞した)本数が最も多かった時期。従って本書に収録された作品は、ほとんど自分もリアルタイムで見たものばかりだ。チェックしてみると、収録されたタイトル全80本の内、未見なのは4本のみ(『スパイ・ゲーム』『腹腹時計』『梟の城』『スター・トレック/叛乱』)だった。


 『Running Pictures』の解説で柳下毅一郎氏が指摘しているように、作家デビュー以前に書かれたこれらの映画評の中には、伊藤氏の小説に繋がる主題や世界観が垣間見える。また、本書は堅苦しい評論集というよりは、もっとざっくばらんな文章なので(元は氏の個人Webサイトに発表された映画レビュー)、伊藤氏の趣味性や人柄のようなものが素直に伝わってくる。結局、映画について語ることは、自分について語ることと同義なのだ。




『雑食映画ガイド』(町山智浩柳下毅一郎ギンティ小林


 「漫画アクション」誌に掲載された映画コラムをまとめた『雑食映画ガイド』。本書では2004年から2012年まで公開された作品が扱われている(一部旧作もあり)。個人的には、次第に映画館から足が遠のいて行く時期に当たるので、本書に収録された作品はほとんど見ていない。先の『Running Pictures』『Cinematrix』で紹介された映画群はほとんどリアルタイムで見ることが出来たが、本書に収録された126本の内、見ているのはわずかに33本のみであった。


 執筆者は初期「映画秘宝」からお馴染みのメンバーである町山智浩柳下毅一郎ギンティ小林アメリカ映画を中心に世相を交えて語る町山氏、自主映画やピンク映画等幅広くアンテナを張り「映画の一回性」にこだわる柳下氏、Vシネやアジアのアクションを中心に語る小林氏、と三者三様のセレクトが楽しめる。信頼できる執筆者なので、いつか時間が出来た時に見る映画を選択する良いガイド本になりそうだ。特に興味を惹かれたのは『セックス&ドラッグ&ロックンロール』(イアン・デューリーの伝記映画)、『エンド・オブ・ウォッチ』(2000年代の『センチュリアン』か?)、『御巣鷹山』(・・・)、『ヒア・アンド・ナウ』(65歳にして聴覚を取り戻した両親を描くドキュメンタリー。町山氏の文章だけで泣ける)あたり。クリスピン・グローヴァーの監督作もいつか見てみたいなあ。



雑食映画ガイド

雑食映画ガイド



『ディスク・コレクション サウンドトラック』(監修/馬場敏裕)


 500枚の名盤を紹介する「ディスク・コレクション」シリーズ(シンコーミュージック)の一冊『ディスク・コレクション サウンドトラック』モリコーネ、ゴールドスミス、バカラック、ド・ルーベ、ドルリュー、ジョン・バリー等々、名コンポーザーたちのアルバムが500枚紹介されている。オールカラーでジャケットが掲載されているのが嬉しい。いきなり「マカロニウエスタン」コーナーから始まり、ジャンル別の名盤が次々紹介されてゆく。「人間ドラマ」コーナーが「複雑な人間ドラマ」「壮大人間ドラマ」「壮大な感動の人間ドラマ」「味のある人間ドラマ」などと妙なお題目で細分化されているのが面白い。監修はサントラ・アルバムのライナーや映画パンフの原稿などでお馴染みの馬場敏裕氏。


 映画のサントラ・アルバムはあっという間に廃盤になってしまうし、再発になっても限定盤だったりしてコレクトするのがなかなか難しい。専門店に行くと目玉が飛び出るような高値が付いていたりする。いくらお金と時間があっても足りないので、サントラ・コレクター道は早々に諦めた。今は神様エンニオ・モリコーネものを時折購入するくらいだ。本書で紹介された500枚の内、手元にあるのはわずかに45本のみであった。本書を読んだら、あれも欲しいこれも聴きたいとコレクター欲が刺激されて参った。サントラ・コレクターの森は深い。キリがないので、くれぐれも迷い込まないように気をつけなければ。ちなみに、オールタイム・マイ・ベスト・サントラは『夕陽のギャングたち』(エンニオ・モリコーネ)です。


サウンドトラック (ディスク・コレクション)

サウンドトラック (ディスク・コレクション)

夕陽のギャングたち

夕陽のギャングたち