Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

最近読んだ映画本その2

『別冊映画秘宝80年代悪趣味ビデオ学入門!』(洋泉社MOOK) 

 80年代前半、ビデオレンタル屋の勃興とともにやってきたビデオバブル時代。レンタル屋の棚に狂い咲いた名作・快作・怪作の数々を振り返る。リアルタイムで経験しているだけに、見覚えのあるタイトルやジャケット写真がたくさん掲載されていて楽しかった。ハズしてがっかりした嫌な思い出が甦ったりして。とはいえ当時レンタル料が高かったので、実際に見たことのある映画は少ない。あとがきに「本書で紹介されているビデオを探そうとしても見つけるのは困難」ということが書かれている。本書は映画の考古学みたいなものだ、と。故に、もっと頑張って見ておくんだったな、という後悔も(ほんの少しだけ)感じた。


血まみれ農夫の侵略 [DVD]

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『昭和怪優伝 帰ってきた昭和脇役名画館』(鹿島茂) 

 特撮映画、東映やくざ映画、日活アクション映画、日活ロマンポルノ、新東宝等々のプログラム・ピクチャー(決してそれだけではないけれど)で異才を放った怪優たちの魅力が生き生きと綴られている。昭和の「怪優」とは誰か。即ち荒木一郎ジェリー藤尾岸田森佐々木孝丸伊藤雄之助天知茂、吉澤健、三原葉子川地民夫芹明香渡瀬恒彦成田三樹夫・・・。個人的に馴染み深いのは岸田森伊藤雄之助成田三樹夫であろうか。『怪奇大作戦』や『血を吸う』シリーズにおける岸田森は他の誰にも似ていない。長生きして欲しかったと残念でならない。伊藤雄之助は、『太陽を盗んだ男』のバスジャック犯がファーストインパクト。その後岡本喜八作品で多彩な演技を見て凄い(濃い)俳優がいるもんだなあと。成田三樹夫は鋭い眼光、鷲鼻、ダミ声、とジョージ・C・スコットを思い出す。彼ももっと長生きして欲しかった。さておき、邦画好きなら必読の熱い好著である。




『シネ・ソニック音響的映画100』 

 映画音楽(サウンドトラック)のガイド本ではなくて、映画の音響効果、または音楽的に特徴のある映画の「聴き方」を指南しようという趣向。ミュージカルやライヴ・ドキュメンタリーだけでなく、『未知との遭遇』、『フェイス/オフ』『シャイニング』等々、SF、アクション、ホラーといったジャンル映画も満遍なく採り上げられている。アニメ『AKIRA』、清順の『肉体の門』等々邦画もいろいろと。この手の本では欠かせないゴダールやアルトマン、ジャック・タチ、デュラス、レネ、といった固有名詞も抜かりなく。なんだけど、どうにも違和感の拭えない一冊だった。樋口泰人氏が繰り返し行っている「爆音上映」と似て非なるものというか、音響も含めた映像を新たな「体験」として受け止めようという「爆音上映」に比べると、いかにもカタログ趣味という印象を受けた。映像体験を求める切実さみたいなものが感じられなくて、一言で言うとお勉強臭くて嫌な感じ。この程度の映画の「聴き方」なんてわざわざ教わらなくても知っとるわい。


シネ・ソニック音響的映画100

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『皆殺し映画通信 天下御免』(柳下毅一郎) 

 柳下毅一郎氏がダメ邦画を斬る「皆殺し映画通信」シリーズ。それにしても、どうしてこんなにニーズ不明な謎の映画ばっかり量産されているのだろうか。そりゃあ撮影所全盛期だって下らない企画や面白くもない映画はたくさんあったと思うけど、いくらなんでもここまで、と思う。撮影所なき今、主導権を握っているのが金を持った素人だからなんだろうなあと思う。撮影所時代のボスだってろくでもない人間だったかもしれないが、少なくとも映画製作においては目利きだったのは間違いない。


皆殺し映画通信 天下御免

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『最強ミステリ映画決定戦』(洋泉社MOOK) 

 「映画秘宝」誌の常連ライターを中心とする100人へのアンケートにより選出された、オールタイム・ベスト・ミステリ映画が掲載されている。映画に限らず、TVムービー(「刑事コロンボ」等)やアニメ等、映像作品なら何でもありという中から選出された総合ベスト10は以下の通り。
1位『サスペリアPart2』(ダリオ・アルジェント)1975年
2位『悪魔の手毬唄』(市川崑)1977年
3位『探偵/スルース』(ジョゼフ・L・マンキウィッツ)1972年
4位『情婦』(ビリー・ワイルダー)1957年
5位『殺人の追憶』(ポン・ジュノ)2003年
6位『セブン』(デヴィッド・フィンチャー)1995年
7位『犬神家の一族』(市川崑)1976年
8位『ミッドナイト・クロス』(ブライアン・デ・パルマ)1981年
9位『サイコ』(アルフレッド・ヒッチコック)1960年
10位『羊たちの沈黙』(ジョナサン・デミ)1991年

 クラシック映画からゼロ年代の作品まで、製作国も年代もそれなりにバラエティに富んだ10本が並んでいて、第1位は何と『サスペリアPart2』。『ミッドナイト・クロス』が堂々ランクインしているあたりがいかにも「映画秘宝」という感じ。『ミッドナイト・クロス』は自分もオールタイム級に大好きな作品だが、「ミステリ映画」かと言われると何だか納まりが悪いような気がする。個人選出のベスト10を読むと、いわゆる推理ものだけではなくて、スパイ映画、サスペンス映画、ホラー映画など、狭義の「ミステリ」からははみ出していると思われる作品が多数見受けられた。本書を読んで、自分でもベスト10を選ぼうとしてみたのだが、確かに「ミステリ映画」というジャンルはなかなか曖昧で仕分けが難しいものなんだなあと思った。ベスト10の他にも、ミステリ対談やコラムなど盛りだくさんの内容で、色々と参考になった。


サスペリアPART2 日本公開35周年記念究極版 Blu-ray

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『世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌』 

 「文學界」のインタビュー記事や対談などをまとめたもので、『LOFT』から『散歩する侵略者』までの近作について紹介されている。ずっと注目している監督なので、こうして特集本が出るのは嬉しい。ここであと1本、いわゆる「名作」路線のヒット作が出ればなと思わないでもないが、『予兆』の切れ味を見てしまうと、このままでいいかもとも思う。


世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌

世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌